NHK阿久悠さん追悼番組〜「地球の男にあきたところよ」の凄み

「壁際に寝返りうって 背中で聴いている
 やっぱり おまえは出ていくんだな」

 沢田研二のヒット曲『勝手にしやがれ』の冒頭の歌詞だが、わずか2行で、その情景と2人の関係が理解できる。男女の別れを歌った曲で、これ以上に鮮やかな書き出しをぼくは知らない。番組を観ながら、いくつもの歌がすらすらと出てくる自分に驚きながら、嬉しくもあった。
 「昭和」とは、良くも悪くも「大衆」というものがまだ残っていて、世代をこえて流行歌が共有できた最後の時代だった。だから70歳で他界された阿久悠さんは、ある意味で「昭和」の終わりをも体現されている。その是非は別にして、そんな流行歌を今の世の中は持てていない。
「生活が豊かになればなるほど、人々の不機嫌がどんどん増していったわけですね。ぼくはその不機嫌に、歌でショックを与えようと思ったわけです」
 不機嫌。テレビインタヴューに答える阿久さんの、その言葉に意表をつかれた。希望でも安堵でも温もりでもなく、大衆の「不機嫌」と3分間の歌で対峙すること。そして歌のもつ喜怒哀楽で、それにショックを与えることが、彼のプロフェッショナリズムだったとはね。
 ピンクレディーの「UFO」の最後の決めセリフ、「地球の男にあきたところよ」の、視点の大きさと洒落っ気はもちろん、そこに隠された失望感がふいにたまらなく苦く思えてきた。1978(昭和53)年に約155万枚を売った、第20回日本レコード大賞受賞曲だ。合掌。