見えない身体(6)〜自分のヘンな歩き方に気づかないオレ

「いやだぁ、びっこ引いてるじゃないの」 
 近所に買い物に出かけた際、奥さんからそう言われた。自分では普通に歩いているつもりなのに、まだ無意識に右足に体重を乗せるのを避けていたようだ。自分ではまるで気づかなかった。2週間前からついたのだろうクセが、靴裏についたチューインガムみたいに、ぼくの身体にこびりついて離れていない。
 それから、まず踵から地面につけて踏み出すように注意して歩いてみる。しばらくして、奥さんからOkをもらう。その調子で15分ほど買い物がてらの散歩をつづけて、ようやく以前の自然な歩き方を思い出す。
 あらためて身体のクセの怖さを痛感させられる。身体にこれだけのクセがある以上、当然、心にもそれぞれのクセがあることになる。それはぼくにも他人にも見えないから、さらに修正するのが難しいことは明らか。考え出すと恐ろしい話だ。
 その一方で、普通の歩き方に戻せたことで、右腰周辺の張りは次第に薄れていった。「相互連関構造」―昔、東洋経済史の講義で覚えた歴史観(具体的にはどういうことが忘れたが、経済と政治のダイナミックな相互作用ぶりを表す言葉だったことだけは覚えている。当時けっこう感動したから)をどこか彷彿とさせるコレクティブな身体変化だった。腰痛ひとつで全身のバランスが損なわれ、自然に歩けるようになることで腰痛も少しずつ消えていく。
 ただ、長時間座っていると、まだまだ右腰の張りが出てしまう。数日前から、仕事場の椅子をバランスボ―ルに変えているのだけれど。