考える脚(1)〜速く歩くように走る 

 先の週末、皇居を走っていたとき。
 すっと抜かされた男性ランナーの前足の着地に目をうばわれた。まるで摺(す)り足のように足を低く出し、足裏全体を地面にペタンとつけるかのようなステップだった。金髪の外人風の後ろ姿で、まるで速く歩くような走り方。しかも、どんどん遠ざかる。
 これだ!とぼくは直感した。ある雑誌で見た、「前足はそっと置くように出すのがマラソンの走り方」という一文が、鮮やかによみがえっていた。


 さっそく、その場で真似をはじめる。膝頭も爪先もあまり上げず、つとめて地面と平行に出す。従来のシーソーのような足裏の動きから、ハンコを押すような動きに変わる。すると自然に上体が安定した。上下動が減り、摺り足で前に進んでいる感覚に、身体がつつまれた。少し目線が低くなったような気もした。
 帰宅後、友人Sに一連の体験をメールで送信すると、こんな返事がきた。彼は高校時代、同じ陸上部の中・長距離選手で、マラソン経験もある。

上下動をなくすのは基本中の基本やで。
昔、瀬古(利彦・元日本代表)が頭にコーヒーカップ乗せてもこぼれへんフォーム、と世界中から注目されたんと同じやな。
100Mの伊東浩司も理論上は同じ。
人間が前進するのに、太ももの前の筋肉はいらんということに気が付くと思う。

 頭にコーヒーカップ乗せてもこぼれへんフォームというのもすごい。しかも、短距離の元日本代表、伊東選手も同じとはね。
 このメールを受け取ったときのぼくの悦(よろこ)びは、ちょっと言葉にしづらい。(つづく)