松岡正剛講演「物語を動かす力が、社会を変える」(六本木ヒルズアカデミー)
手際のいい料理人の仕事を、目の当たりにするような気がした。
少ししゃがれて、渋みのある低い声で松岡さんは、こう問いかける。「今の社会に『物語』はあると思いますか?伊勢丹と三越が一緒になる、そのどこに『物語』があるんでしょうか?三菱東京UFJ銀行って、いったい何なんですか?」――約100人ほどの会場から失笑がもれる。
彼がここで使っている『物語』とは、かつて松下幸之助や本田宗一郎らがその人生を賭して描いてみせた『物語』のこと。企業を支えるドラマツルギーだ。こう言われると、三菱東京UFJ銀行という行名には、たしかに「寄せ集め」の印象しかない。あるいは市場シェアや、業務の効率化といった程度の算段しか見当たらない。
そんな『物語』の使い方が鮮烈だった。この日は、松岡さんが主催する「ISI編集学校」から生まれた『物語』をまとめた本(以下参照)の出版記念講演会。青山ブックセンター六本木店主催。
さらに彼は続ける。「英国BBCが世界を面白くさせている国として、ドイツと日本をあげたそうです。その理由は明らかに、フランスを始めとするヨーロッパから見たときの『クール・ジャパン』、漫画やフィギュア、アニメといった、個人や小さな組織の『物語』でしょう。つまり、今の日本には、政府や大企業によるトップダウンの『物語』はまるでダメで、個人などからのボトムアップの『物語』が面白いということですよ」
社会の現実をわかりやすく読み解き、見える化して提示する、その手際の良さには溜息がもれた。
この視点は、個人でもじゅうぶん応用できる。
日常を面白くする『物語』を、いかに手作りできるのか、それが日々の生活をワクワクしたものに変える力をもつということ。フットワークが軽く、好奇心旺盛で、強いエネルギーをもつ女性たちが、あちこちで活躍しているのもうなづける。人生の物語編集力は今、女性の方が圧倒的にある。
松岡さんの講演では、今停滞しているぼくの仕事と、ピントが絞りきれていなかった企画にも、いくつかのヒントをもらった。当座、ぼくの物語は、6月のフルマラソンで4時間を切るというやつと、もうひとつぐらいか。
- 作者: 松岡正剛
- 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
- 発売日: 2008/02/29
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