神様が仰ってる(2)〜ある匠の一言


「よう調べてんなぁ」
「今回、○○さんにお話を伺うために、私なりにかなり資料を読み込んで準備をした上で、ここに座らせていただいてますから」
 ぼくがそう応じると、その方は黙ってニヤリと笑われた。そこから潮目が変わる。相手との呼吸が合い、見えない距離感が近づき、緊張感がとけて笑いが生まれる。インタヴューワーにとっては、堪らない悦びに包まれる瞬間。さんざん取材を受けていらしただろう方からの、「よう調べてんなぁ」は嬉しい。コンクリートの要塞みたいな建物の一室にぼくはいた。


 時おり、背後の広報担当者の笑い声も聞こえ始めた。当初予定されていた1時間半をすぎ、結局30分オーバーしてしまったが、何の注意も受けなかった。あるスポーツ製品づくりの匠の部屋のドア近くで、いつも以上にしっかりとお辞儀をして踵を返した。心地いい疲労感と安堵感で、身体が火照っていた。