ジャニス・ジョプリンの歌声〜音楽は弱点が武器になる
ジャニス・ジョプリンの名曲「クライ・ベイビー」。それが海外を放浪中の恋人へ捧げた、彼女のラブソングだったとは知らなかった。しかも二人が誓った、アメリカ大使館を通じての手紙のやり取りと、ネパールでの再会。それがボタンの掛け違いめいたチグハグさでかみ合わず、27歳のジャニスの突然の死によって途切れる。その上、彼は再会を約束した地で、雑誌「タイム」に取り上げられた彼女の訃報記事によって、その事実を知る。
NHKハイビジョンで観た、ジャニス・ジョプリンのドキュメンタリーは痛ましく切ない分だけ、心に刺さる。番組の最後で紹介された、ジャニスの言葉が耳に残る。
私ぐらいの才能のある人はたくさんいる。
でも、誰よりも愛情を強く求めてた分だけ、
私は成功したのかもしれない
歌手としての成功で膨らんだ虚栄心と、何気ない日常の幸せを分かち合う相手の不在が尖らせた孤独感。その小さな隙間で、彼女はいつも震えていたのかもしれない。
音楽は弱点が武器になる。
なぜなら、すごくいい人や、
何の挫折もない人の歌なんて、
誰も聴きたくないからだ
いつかテレビで聴いた言葉を思いだす。たしかに、彼女のは「歌う」というより「叫び」や「独白」めいていて、だからカッコよかった。歌詞の意味もよくわからないアホなぼくにとって、それでもなお、グッとくるヴァイブレーションを放っていた。
彼女のことを知ったのは映画『ローズ』。大阪の小さな名画座だった。ベット・ミドラーが演じたジャニスが、忌まわしい思い出ばかりが残る故郷での凱旋公演のステージ上で崩れ落ちたとき、静かに『ローズのテーマ』が流れた。あれもいたく胸に刺さる映画で、当時のぼくはどう生きていけばいいのかわからず途方にくれる、25歳のチンピラだった。今もあんまり状況は変わってない。ゲロゲロッ!
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