最大の敵は「(お金の)苦労をしていないこと」


 ふいに、その言葉がぼくの胸に突き刺さった。まるで予想もつかないタイミングで、だ。自分の子供たちにくり返す警句があるんだよと、矢沢永吉糸井重里を相手にテレビでしゃべっていた。
「おまえたちの最大の敵は、(お金の)苦労をしていないことだ。だから、いつかおまえらは、その敵から痛い目にあわされるぞ」
 

 父親としての彼は、エアコンやテレビの電源を消し忘れて出かけた子供たちを座らせて、電気代はタダではなくて、オレが稼いだ金から払っているんだ、と説教するという。たしかに、かつて35億円の借金を背負い、自ら稼いで返してきた男から、そんな説教をされたらグーの音も出ないよなぁ・・・・・、その辺りまでは、まだ他人事だった。

 自分のケツは、おれ、いっつも自分で拭いてきたから。
 それだけは胸張って言える。でも近頃は、国も企業もそれがないでしょう。その代わりにすぐ両手あげちゃう、自分の金でもないものを、自分の金のように景気よく使いきった挙句に、何かで追いつめられたら簡単に「ごめんなさい」で逃げようとするじゃない・・・・・・


 そこまで彼の言葉に耳をすませてきて、さすがに呑気で馬鹿なスチャラカにもグサリッときた。・・・・・・おれも本当の苦労をしていない、苦労しているようなフリだけは何度かしてきたけれど。しかも最悪なのは、それがなんかラッキーで、どこかカッコいいことだみたいに、まるで錯覚してきたことだ。


 矢沢が言うところの「最大の敵」を、きちんと認識さえできていなかった。だから、しっかり戦えてもいなかった。あ、イタタタタ〜ぁ。だから生活感がないって、オッサンになっても言われちゃうんだ、おれ(それもなんかイイことのように、はき違えていた)。


 このタイミングで、「お金と仕事」をテーマに、矢沢に語らせて世の中に投げ込もうとした糸井の意図が、手重りする痛みをともなって腑(ふ)に落ちた。