「常夜燈」から「ヒミズ」へ(3)
安藤忠雄事務所玄関前の貼り紙にグッときて、このまま東京で帰るのがさらに嫌になった。地下鉄で心斎橋に出た平日午後、ひさしぶりに商店街を道頓堀までぷらぷら歩く。
道頓堀のTUTAYAまで来て、ふいに今年の手帳を物色する気になって立ち寄る。そこで見つけたのが小説「ヒミズ」。昔、友人Sから紹介されて「稲中卓球部」にハマり、その流れで古谷さんの漫画「ヒミズ」全4巻も読んでいたが、内容はほとんど忘れていた。そもそも、漫画のノベライズって難しいしなぁと思いながら、最初のほうをパラパラと斜め読みしていて気が変わった。少々長くなるが引用する。
叶えられない幻想と、叶えられるちょっとした欲望をごっちゃにして、夢だ希望だと言ってれば、それだけで立派な若者として大人や周囲から評価されるんだから。
私だって大して違わない。小さいころから発育が良く、背も高かったこともあって、周りから大人っぽいと言われ続けた。すると不思議なことに、私自身もそういうふうに振る舞ってしまうようになった。
ジャニーズなんかにキャーキャー騒ぐのはバカバカしい。キティちゃんみたいなファンシーグッズとかも持たない。フリルのついた服なんか着たこともない。わざわざ電車に乗ってヴィレッジヴァンガードまで行って、サブカルの臭いがプンプンしてる小説や漫画を買ってきては、さりげなく学校の机の上に置いとりたり。
「茶沢さんって変わってるよね」
そう言われたいがために。
黒縁のメガネに背中が半分隠れるくらいストレートに髪を伸ばし、スカートもほかの子たちより少し長い。カバンにジャラジャラとよけいなアクセサリーはつけない。ケータイも持たない。おしゃれとかカワイイとかからあえて一線を画し、長身を生かした周囲を見下ろすような圧倒感とクールさ。
そんなことでしか自分を表現できないだけ。<<<<
ツイてる、ひさしぶりに小説読みの血が騒いだ。
手帳のことなんか忘れてまっすぐにレジに向かい、文庫本を買って、新幹線に乗るために新大阪に向かった。
「常夜燈」主人のエビス顔の凄み、安藤事務所の貼り紙のエスプリ、そして小説「ヒミズ」のグルーブ感。おまけに主演の二人がベネチア映画祭最優秀新人賞受賞の映画「ヒミズ」公開も間近。もはや、ロイヤルストレートフラッシュ級の寄り道になった。
- 作者: 山崎燕三,古谷実
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2012/01/06
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
- クリック: 6回
- この商品を含むブログ (5件) を見る