池田晶子『14歳からの哲学』〜行間は高らかに歌う

 山あいの細い道をうんざりするくらい黙々と進み、ふいに視野が開けて高台や頂(いただき)に出る。あのときの清々しい高揚感を思い出した。

 この本は前半70ページほどがとりわけ難しい。
 哲学用語を使わず、ひらがなを多用して書かれてはいるものの、「自分とは誰か」「心はどこにある」など抽象的なテーマが続くせいだ。噛み慣れなくて、うまく飲み込めない固形物みたいな、もやもやした読後感がつづく。正直萎(な)えそうにもなった。その後、このブログで前に触れた親子観が登場してハッとさせられてからは、胸に刺さるフレーズと次々と向き合うことになる。

 目に見えないのに存在する思いや考えを「観念」と定義したうえで、彼女は「社会」とはひとつの観念であって、けっして物のように自分の外に存在している何かじゃないと指摘して、こう書く。

 社会を変えようとするよりも先に、自分が変わるべきなんだとわかるね。何でもすぐ他人のせいにするその態度を変えるべきなんだ

 その辺りから終盤の「人間には命よりも大事なものがある。それは精神で、精神の正しさ、美しさ、その高さだ」という頂点に向かって、一気に加速していく。その足取りは高らかで、うつくしい。前半骨が折れた分だけ、その鮮やかな転調も心地いい。

 池田さんの本はこれで五冊目だが、もし興味がある人がいたら、この本を真っ先に勧めたい。おそらく「考える」や「自由」、あるいは「精神」という言葉の姿かたちが、まるで違って見えてくるはずだ。
 そしてぼくもこれからの50代、60代、生きていれば70代で、それぞれ違った読後感を得られるにちがいない。

人間はあらゆる思い込みによって生きている。その思い込み、つまり価値観は人によって違う。その相対的な価値観を絶対だと思い込むことによって人は生きる指針とするのだけれども、まさにそのことによって人は不自由になる。外側の価値観に自分の判断をゆだねてしまうからだ。

14歳からの哲学 考えるための教科書

14歳からの哲学 考えるための教科書