2012年の孤高の描き方〜イーユン・リー著『千年の祈り』

千年の祈り (新潮クレスト・ブックス)

千年の祈り (新潮クレスト・ブックス)

 従妹との結婚で障害のある子供を授かった夫婦や、一人の美少年を共に愛してしまった一組の若い男女、愛する男性を親友と偽装結婚させてまで米国に出国させた挙げ句、その二人に10年前に結婚されてしまった独身中年教師などーー。けっして恵まれた境遇とはいえず、なおかつ、周囲の人たちとの相容れなさを抱えているものの、そんな現実にへこたれてもいない。

 
 そのしたたかな強さが、在米中国人女性作家イーユン・リーが描き出す短編の登場人物たちの魅力。ただの孤立でも孤独でもなく、それはやはり孤高という言葉がもっともしっくりとくる。時代や世の中のせいにせず、あくまでも自分の人生と毅然と向き合い、いかに勇敢に引き受けるのか。じつに多種多様なアプローチで、2012年の空気をしっかりと吸い込んだ人物たちを彼女は描きつづけている。


 世代や性別や人種をこえて読者を惹きつけると同時に、それがアメリカ国内で数々の文学賞を受けた理由だろう。文革天安門事件といった時代背景を垣間見せながら、どの作品もそういう要素だけにとどまらない奥行きと広がりを兼ね備えている。貧しい境遇の老婆を描いても、倦怠期の夫婦や初恋に戸惑う女子高生に言及しても、そのいずれにも手堅い説得力を与えてしまう筆力には、読みながら何度か溜め息がもれた。


 北京大学卒業後、米国アイオワ大学大学院修士課程で免疫学を専攻しながら、新たに同大学院で創作科修士過程を専攻し直したというユニークな経歴。そして第二外国語である英語で執筆したこのデビュー作で、いきなり高い評価を得ているシンデレラぶり。まだ今年を振り返るには少し早いが、イーユン・リーに出合えたこと、そしてこれからも彼女の作品を追いかけられる幸せは、自分にとって間違いなくベストテン入りする出来事だ。