柔らかな膝

「以前と違って膝の使い方がとても柔らかくなって、上体の力をうまく逃がしている」
    ネットを見ていたら、マリナーズの岩隈投手のコメントに目が留った。元同僚でヤンキースの田中投手の投球フォームの変化について彼が語ったもの。以前はもっと勢いよく左足を踏みこんでいたという。
 

    上体の力をうまく「逃がす」。つまり、高く上げた左足の膝を柔らかく使うことで、体重の移動をより滑らかにして上体が前のめりになる推進力に換え、投げるボールにうまく伝えられているということだろう。それなら走ることにも応用できる。


    さっそく強い日差しが陰り、強い風が吹きはじめた夕方頃走りに出た。30分ほど走って適度に汗をかき身体がほぐれてから、意識して足を柔らかく着地し、膝を曲げるときに膝頭から息を吐き出すようなイメージで走ってみる。肩の力をぬきつつ肩甲骨を大きく動かし、膝から上体の力を前に逃がすことで推進力に換える。もちろん、あくまでもイメージ上でくり返す。


    うまく脱力できてる感じと以前と変らない感じが交錯する。が、頭で思い描くイメージを身体でうまく実践できれば誰も苦労しない。それが簡単ではないから練習が必要になり、人一倍の情熱が求められ、その地道な過程で忍耐を学び、向上心も刺激される。膝を柔らかく使いきれる大腿筋やふくらはぎの筋力強化も必要だろう。当分飽きないオモチャをひとつ見つけた。


    レベルの違いはあっても、スポーツをするとはそういう小さな試行錯誤の気の遠くなる反復。頭でわかっていても、実際にはうまくできないことのほうが多いから。その過程でどれほどその競技が好きなのかも試される。
    ブラジルで日本代表として戦っている選手たちは、子どもの頃から、そんな膨大な数の小さな試行錯誤を反復し積み重ねた成果として、あのピッチに立っている。