佐藤卓展「PLASTICITY」〜見ているようで見ていないものを意識化させる

rosa412004-05-20

 たとえば、ぼくが仕事グッズのひとつとして常備しているロッテのクールミントガム。あのパッケージ・デザインには4面中、5頭のペンギンが一列に並んでいる1面がある。そこまでは、ぼんやりイメージできる人はいるかもしれない。
 しかし、その5頭中左3頭は同じ姿勢ながら、左から4頭目は左手を上げていて、5頭目は両手を後ろに突き出して前のめりな姿勢だったりすることまで、気づいている人は、かなり少ないのではないか。実際、ぼくも今回の佐藤卓展で初めて知った。
 それは控えめであるけれど、同ガムのリニューアルにかかわった佐藤の仕事のひとつ。見ているようで見ていないものを意識化させる仕掛けだとぼくは思う。
 昨日、筑紫さんと昼食をご一緒した後、銀座へ行って佐藤卓展を観た。平日昼間、20代が多く、業界関係者のネクタイオジサンちらほら。パッケージから広告まで商業デザインを扱う佐藤。最近の仕事では明治おいしい牛乳や、ロッテのキシリトールガムなどのパッケージデザインといえば、「ああ、あの」という人も多いかもしれない。
 露骨な自己顕示欲とは対極の、商品に自ら歩み寄り、その社会性や歴史を汲み取って、自分なりのアクセントを加える。それが彼の仕事のトーンとしてある。だから個々の作品に目を奪われることはない。そこに彼の狙いはないからだ。だが個々の作品へのアプローチ方法を読むと、その造詣と洞察力の深さがわかる。
 この日一番印象深かったのは、会場1階のキシリトールガムのディスプレイ。それも路上に打ち捨てられたガムのパッケージや包装紙など、普段は記号として扱われ、仔細に見つめられることのないゴミ同然の自分の作品を、アクリル製の立方体にパッケージ化していた。
 破かれたもの、丸められたもの、クシャクシャにされたもの、さまざまなパッケージがあり、そこには人間の手つきや感情、物の扱い方までが一緒に作品化されている。
「見ているけれども見ていないものを意識化させてみたかった」とそれらの作品化の動機を、佐藤は説明する。作家としての苦味と誇り、そして遊び心がその文章にギュッと詰まっていた。
 ちなみに作品展タイトル「PLSATICITY」とは、可塑性(固体に圧力をかけると形が変わり、圧力を取り去っても元の形に戻らない、粘土みたいな性質)、適応、順応の意味。
佐藤卓展「PLASTICITY」
銀座グラフィック・ギャラリー(5月10日〜31日)
http://www.dnp.co.jp/gallery/ggg/index.html