テオ・アンゲロプロス&池澤夏樹『THEO ON THEO』

rosa412004-07-16

鷲を思わせる鋭い眼ざしと、その野太い低音の声。いざ話し始めると、アンゲロプロスは70歳目前とは到底思えない精気を放つ。
今回の映画祭でワールド・プレミア上映された『THEO ON THEO』は、彼の映画の日本語字幕担当である、作家の池澤夏樹が、ギリシャ事務所でアンゲロプロスに行ったインタヴューを撮影したもの。
この映画を観て初めて、彼が1935年生まれで、その翌年からドイツによるギリシャ占領が始まっていたことを僕は知った。大長編映画旅芸人の記録』が描いた、ドイツ占領から連合国軍統治、内戦の時代に、彼は思春期から青年期をすごしていたことになる。あれほどディテールに執拗な作品ができあがった理由がよくわかった。
もっとも印象深かったのは、池澤が投げかけた質問に対する、その詳細は忘れてしまったけど(^^;)、彼のこんな答えだった。
「むしろ、ドイツ占領下にあった時代の方が希望があったと思います。占領がなくなったとき以降は、そんな希望すらなくなってしまった。そして世界は変質しつづけている」
 こうして文字にすると、すこぶるニヒリスティックな人物だと思われるかもしれない。しかし彼はなお、ボスニア紛争をモチーフに『ユリシーズの瞳』を制作するなど精力的な仕事をこなしてきた。むしろ失望に火をつけて、彼は映画を創りつづけてきたことになる。
時代を視て、それを捉え、映画という器に取り込む。その射程がギリシャ現代史から欧州、さらには全世界へと広がっても、彼の仕事ぶりは何ら変わらない。表現者としての尽きない、分厚い岩盤のような情熱と意志に、僕は見事に往復ビンタを喰らわされた。映画祭最終日のいい記念だ。一人の監督の映画を1週間で5本も観たなんて、人生初の快挙でもある。劇映画ではないので、採点はなし。