大東流合気柔術は、実にあっさりと「あ、痛ててて・・・」

rosa412004-08-20

 ギャップに人は惹かれる。さっきまでにこやかに取材に応じてくれていた人が、道義と黒袴に着替えると別人に変身した。木刀をもって打ち下ろしてくる相手の両肘を受け止めつつ、瞬時にのツボ(痛点)に親指を食い込ませて、相手の動きを止め、流れるように相手を倒して、最後に「はっ!」という気合い一発、手刀を振り下ろす。
 その瞬発力と速さに呆気にとられた。カッ、カッチョイイ〜!相手のツボを攻めて、相手のバランスを崩し、その流れで倒すので、力はいらない。 
 
 平安時代中期の武将を流祖とする大東流合気柔術。古武道のひとつで、合気道の母体となった流派だ。ある雑誌の取材で、葛飾区にある大東流合気柔術の日本本部に出かけた。
 まず驚いたのは、膝行(しっこう)という基本動作だ。古来、殿中では殿様がいる場では立てなかったため、立膝状態で歩くように進む膝行が用いられていたらしい。
 右足が立膝のときは、左足は右足と直角にして後ろに引きつける。いわば下半身はねじれた状態だが、上体はけっして動かさず、胸をはっていなければならない。前進する際は、立膝の右足を前に倒しながら、今度は左足を立膝状態に。それを繰り返しながら前進するのだが、前へ進むたびに上体は左右に揺れるし、後ろ足をひきつけて前足と直角になるようにひねるのもテンポ良くいかない。なのに、その師範代は、まるでムカデみたいにスルスルとそれで進む。それだけでもかなりの脚力にちがいない。
「接する瞬間に(相手を)崩す」
 相手の攻めを受け止めていては遅い。接する瞬間、すでに相手を崩していなければいけないという。背後から来る相手を予知能力や洞察力を働かせて、接する瞬間に崩す。
「相手の目を見て呼吸をはかり、相手が息を吐ききって、これから吸おうとする瞬間に攻めれば、相手は動けない」
 うーん、言葉のひとつひとつに奥行きがある。
 
 片襟を持てと師範代にいわれて強く握ると、その握った腕をひねられて、実に簡単に「あ、痛ててて・・・」とぼくが声をあげると、「このままさらに力を加えると、どこが折れますか?」と師範代。痛がりながらも、取材中のぼくは「上腕と肘の上・・・」と律儀に答えると、「いえ、手首も折れますから全部で三カ所ですね。それを折ろうと力を入れるのが柔術です。でも折っちゃうと練習できないから、ここで手を緩めて、相手を投げる。それが合気柔術なんです」という。
 しかし一連の動作を反復することで、どうやれば折れるかを体感するのも、合気柔術の学びのひとつだ。親指一本でもひねられたら、あっさり戦意喪失して「あ、痛ててて・・・」を連発する、情けないオジサン一人。古武道の奥行きに身体ごと触れた一日でした。

大東流合気柔術WEB
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