激論!<「ニート」meets ひきこもり>YMCAアジア青少年センター

ニート―フリーターでもなく失業者でもなく

 最近、マスコミで取り上げられている「ニートNEET)」という言葉がある。学校に通うわけでもなく、職に就こうとするわけでもなく、技能習得のために訓練をうけているわけでもない、15歳から34歳までの無業の若者たちのこと。9月に厚生労働白書で発表されたニートは約52万人だった。
 今年7月『ニート〜フリーターでも失業者でもなく〜』(幻冬舎)を共著で出版された、経済学者・玄田有史(げんだゆうじ)東京大学助教授と、拙著で取材させたもらった、引きこもりを支援するNPOニュースタート事務局」の二神能基代表のトークライブが、本日行われた。

 今まで、フリーターは「働く意欲のない若者」視されてきた見方に、玄田さんは自身のフィールドワークをもとに「働かないのではなくて働けないのだ」と真っ向から反論する。企業が採用を絞り、正社員を契約や派遣社員に切り替えていく中で、安定した状況で働けなくなっている人たちが急増している。仮に現在は正社員であっても、誰もがニートになる可能性を抱えている。
 じゃあ、仮に正社員だから勝ち組かといえば、むしろ人が減った分、増えたノルマをこなさなければいけなかったりする。 確かに僕の周りでも、死ぬほど残業させられている友達や、成果主義という名の人件費圧縮制度の中で、異動部署によって15万前後も給料が増減する会社で働いている友達がいる。彼らは会社にとっては好都合な人材かもしれない。しかし、そんな働き方で、人生ハッピーになれるなんて誰も思わない。ならば、どこの若者が自らすすんで、そんな会社に、そんな社会に参加したいと思うだろうか?

「ぼくは引きこもりにはならないかもしれないけれど、ニートになる可能性はじゅうぶんあると思っています」
 という玄田さんの発言は、けっしてギャグではなく、今の社会構造をじゅうぶんに見据えた発言で、印象に残った。ひきこもりの若者たちも、仮にひきこもりを脱しても、今度は就労問題という壁に直面する。引きこもった時点で、すでにニートの壁に直面している場合も多い。ニートとひきこもりの問題は、かなり重なっている。
 その一方で、社会保障制度が揺らぎかねないという行政の観点から、ニートへの就労支援対策が進められつつある。「しかし、社会保障制度が危ないから働け!と言って、じゃあ僕、社会のために働きますという人間がいると思いますか?」と彼が会場に問いかけると、失笑がもれた。

 それをうけて、二神さんも、問題の立て方が反対で、むしろ「ニートや引きこもりの若者にとって働きやすい社会とはどういう社会なのかをこそ考えなければいけない時期にきていると言う。どう見てもハッピーそうには見えない大人たちの働き方を見て、お金じゃなくて、働き甲斐のある仕事につきたいという若者の視点で、社会を組み替えていく取り組みこそが求められていると応じた。
 ニートや引きこもりを通して問われているのは、私たちの社会システムの歪みそのものなのだ、という二人の指摘がまるで「王様は裸だ!」と叫んだアンデルセン童話の少年の一撃のように、胸にひびいた夜だった。

玄田有史・曲沼美恵著『ニート〜フリーターでも失業者でもなく〜』(幻冬舎ASIN:4344006380
玄田有史著『仕事の中の曖昧な不安』(中央公論社ASIN:4120032175)