浅草ロック座体験(2)〜「紙テープ男」の愚直な愛

rosa412004-12-21

 それはぼくらが潜入後、2人目の踊り子さんが場内中央の回転ステージで踊り始めたときだ。その円形のステージは、正面の大きなステージから伸びている。ふいに背の高い、痩せ型の男性が、大きな紙袋をもって右端の通路から現れた。彼は踊り子さんのいる円形ステージには目もくれず、誰も座っていない正面ステージ近くまで行って、しゃがんだ。何やら紙袋に手をつっこんでいる。
最初は劇場のスタッフかと思った。だって踊り子さんには目もくれないからだ。だが踊り子さんが衣装を脱ぎ捨てる頃合になると、いきなり最前列あたりから振り向きざまに、紙テープを踊り子さんに向けて投げてみせた。およそ10本ほどに拡散するタイプの紙テープで、確か最初は銀色だったと思う。それから彼女が踊りの中で、決めポーズをとる度に、赤や白の紙テープが要所要所で投げられた。しかも投げ方が胴に入っていて、ちゃんと強弱がある。
 踊り子さんにテープが触れるか触れないかのタイミングでぱっと消える場合もあれば、彼女の胸元に一本の赤色のテープが、少しくずれた「U」の字型にキラキラと光りながら垂れる場合もある。彼女の背後から、我々お客に彼女がよりきれいに見えるようにと、男はテープを投げている。でも、その前の踊り子さんのときにはそんな演出はなかった。
 宴会場にもどってから、神山さんにきくと、どうも「紙テープ男」は、踊り子さんの追っかけらしい。へぇー、とぼくはうなった。6000円の入場料を払って、自分のお気に入りの踊り子さんの背後から紙テープを投げてみせる男に興味がわいた。
 彼の位置からだと、大好きな彼女の裸さえライトの陰になってよく見えないだろう。しかし彼女への想いが高まりすぎて、もうまぶしくて見れないのかもしれない。しかし彼女を応援したいという抑えられない衝動。彼女のステージをより良きものにしよう、少しでも力になりたいという想い。それが彼に色とりどりの紙テープを投げさせるのか。いや、もしかしたら、お客たちの舐めまわす視線をほんの少しでも彼女から外そうとする、彼なりの懸命な目くらましかもしれない。ぼくの妄想にスイッチが入る。
 ・・・・・・どちらにせよだ。手紙とか出待ちといった意思表示ではなく、ステージという同じ空間で、大好きな彼女の背後から紙テープを投げる。そういう寄り道をせずにはいられない彼の情熱。そんな形式をとらざるをえない愛情。それは今流行の『電車男』にも劣らぬ、まるで垢抜けない純粋さだ。だが、それはロック座の暗闇から投げられステージを照らすライトに映えて一瞬きらめく、ありふれた紙テープにも似てとてもきれいではないか。
 神山さんの話だと、踊り子さんは彼女をより美しく演出する劇場の照明さんと職場結婚するケースが多いのだという。「紙テープ男」の愚直な愛の方は、往々にして彼女にはとどかない。
 この話を翌日、うちの奥さんにすると、彼女はきっぱりとこう言った。
「それを切ないと思うのはあなただけで、たぶん、紙テープ男の人はじゅうぶん自己満足できていて、とても幸せなんだよ」