川内倫子写真集『AIRA(アイーラ)』〜万物の音に耳を澄ます女(ひと)
ひさびさに写真集がほしくなった。01年、リトルモアから3冊の写真集の同時発売で、鮮やかなデヴューを飾った川内倫子さん。ちなみにぼくはその中では『花火』が好きだった、買ってないけどね。
あの3冊よりもっと強弱がついて、その分だけ鮮烈な作品になった気がする。その鋭角に研ぎ澄まされたものに心を突き刺されて、無性に欲しくなった。
今日の午後、改めてページをぱらぱらとめくると、それぞれの写真から「音」が聴こえてきた。クラシック音楽の旋律みたいな、それぞれに純度の高い鉱物みたいな音だ。まったくの印象だから、その理由を具体的にと、きかれても困る。
でも自分なりに少し考えてみると、この一冊は写真家の眼よりも、写真家がそれぞれの被写体に対してその耳を澄まし、聴きとろうとしている音こそがテーマなんじゃないか、そんな言葉に着地した。
赤ん坊が半開きにした小さな赤い唇から垂らすヨダレ。殺され皮をむかれ、仰向けにされた鶏がその口から垂らす一筋の血。枯れて干からびたヒマワリの大きな花弁。白いガーゼを赤く染める、今抜かれたばかりの1本の歯。ふさふさした白い毛におおわれて、こちらを大きな目で黙って凝視する、ぬいぐるみめいたフクロウ・・・。
それらの音は簡単には聴けない。だから写真家は耳を澄ましている。
その一方で、たくさんの物事が一気にデジタル化している。1か0か。勝ち組か負け組か。正義か悪か。ありとあらゆるものが、そんな二項対立にてきぱきと振り分けられて「処理」されていくから。
ipodを捨てて町に出よう。ありとあらゆるものが発している音にもっと敏感になろう。もっと我慢強く耳を傾けよう。街なかで雑踏で一人、音楽に引きこもっている場合じゃない。
●「りんこ日記」発見!