田町「ヌースフィア」の原点

 昨日12日(土)午後、池袋でおこなわれた「リクルートの独立・企業応援フェスタ」に行ってきた。セミナー講演者が、田町「ヌースフィア」のF社長。カフェ&ダイニング開業の経験者として体験談を披露するためだ。オーナーのMLでレポートするために、ぼくも参加した。
 まず講演タイトルがいいんだな。「独立の痛みと、オイシサ、教えます!」おいおい、最初に「痛み」かよ(^。^;)。
 伊豆にあるコーヒー焙煎工房「間菜舎」を主宰する高田さんの極上のコーヒー、天然酵母パン屋「ルヴァン」の甲田さんと出会い、カフェ開業を思い立ってから10年目で開店した「ヌース」の話を、かいつまんで語っていた。彼の話の中で一番良かったのは、やっぱり店舗デザイナーとの出会いの部分。以下、要約するとこんな感じです。
「吉祥寺のオーナーさんから、ある店舗デザイナーを紹介されました。その人の話だと、店舗が完成したときに、なんか物足りない感じが残る。ところが、いざ開店してコップなどが雑然とおかれたり、多少店内が汚れてくるとだんだん完成していくデザインだという話に、ぼくは心惹かれました。
お客さんが入ってないと寂しい感じがするから、オーナーもなんとか埋めていこうという気持ちがわいてくる。そうやって、だんだんとお店ができていくんだという。その話にいたく心を打たれてしまったんです。
そしてデザイナーさんに会わせてもらい、妄想書みたいな企画書を書いていったのですが、うまく自分のイメージが伝えられず、頭をひねったすえに、店舗で流したい音楽を自分なりに集めてCDにやきつけて、デザイナーさんに聴いてもらったら、やっと気持ちとニュアンスが伝わったんですよ」
これが「ヌース」の原点です。その企画書は冒頭こんな言葉で始まる。

なくなってしまっても、2秒くらいであきらめのつくお金、50万円か100万円、お持ちじゃありませんか?
IPO(株式の店頭公開)は絶対にしません。
配当もできるかわかりません。
せっかく投資いただいたお金が最後には消えてなくなるかもしれません。
そのときは、2秒であきらめてください。
でも、そのかわりに何かは残ると思います。

 ぼくは、この文章のほがらかな非常識に、コロッとヤラれた。いや、でも、すぐに出資を即決したわけではありません。一口株主とはいえ、ぼく自身はそんなオーナーなんて分不相応でしょう、やっぱり。でもこの企画書と、オーガニックレストランというコンセプトには、正直つよく心惹かれた。
 で、ライターの端くれとして、この企画書に、もっとこう書き加えれば、さらにグッと良くなるんじゃないのと、その企画書のコピーをくれた人にメールで送ったら、いきなり「荒川さん、参加してきましたね」という返信が届いた。
 えっ、参加してきたってことは、お、おれももう出資者の一人なの?マジか?イヤ〜、まいったなぁ〜、どうしよかなぁ・・・。
 でも後日、この返信をくれた人にきくと、そこまで深い意味はなかったようです。なんか、ぼくがノッてきたことが嬉しかったみたいなだけで。ええ、要はぼくの一人相撲でした。おっちょこちょいなんです。実はかなり。で、32人の一口株主が集まり、お店が誕生しました。ぼくみたいなトホホなヤツは一人だけだと思うけれど、それでも32人の、健やかな遊び心を感じさせる、けっこう粋な物語でしょう?
 今年6月で「ヌースフィア」も丸2年目を迎えます。セットメニューですが、土曜日ディナーも始めました。
 貧乏ライターなので、そう頻繁には行けません。でも都内の近場に、心から愛しいと思える店があること(「好きな店」10軒分くらいの愛おしさで)。そこで気心の知れた友人たちと愉快な時間をすごせる幸福は、お金では買えません。おっちょこちょいな自分を、今は少しだけほめてやりたい。そんな気分です。さあ、そろそろ、ぼくも「ヌース」でやりたいと思っていることをやりませう!
 そして皆様も、ぜひ一度足をお運びください。この文章の空気をきっと感じてもらえるお店ですから。(webからの店内の様子がご覧いただけます)電話予約時に「荒川さんのblogで見ました」というと、ちょっぴりオマケがあるかもしれません。
「ヌースフィア」電話03-5730-0881 港区芝5-20-20 春日ビル2.3F
JR田町駅三田口徒歩3分。三田口を背にひたすら直進、第一京浜道路を横断、ローソンを右に見ながら商店街入るとすぐ。