青山ブックセンター本店カルチャーサロン「柔らかな建築」〜水草から着想された非均質な美術館と、バラバラな大小の集まりこそが強度と調和をもちうる可能性

rosa412005-05-15

 文章以外の分野から、チャンスやヒントを手に入れたい。近頃、強くそう思う。実際に他の分野で生きている人の話は、とてもリアルにぼくの耳にひびく。 
 土曜日の夕方、青山ブックセンター本店のカルチャーサロンでのトークセッションに出かけた。タイトルは「柔らかな建築」、メインゲストは建築家のヨコミゾマコトさん。左アンテナの「REALTOKYO」でこのイベントのことを知り、ヨコミゾさんが手がけた「富弘美術館」を検索してみて、心惹かれた。興味ある人はクリックしてほしいが、大小さまざまな円筒形の部屋が連結されている美術館だ。廊下がなく、人は部屋から部屋を通り抜けるかたちで移動する趣向だ。ちなみに、富弘美術館とは交通事故で身体障害者となってから、筆を口にくわえて絵と詩を描く星野富弘さんの美術館のことだ。
 20世紀的な均質な建築ではない、非均質的な建築を考えていたヨコミゾさんは、この建物を水草から着想したと、当日の会場で教えてくれた。そのときの説明がイカしてた。
「水面にうかぶ水草は、どれもより多くの太陽光をあびて大きくなりたいと思っているんですね。ただ、自分ばかりが大きくなりすぎちゃうと、他の葉を枯らしてしまうから、周囲の葉との調和を重んじつつ、ほどよい成長を求めようとする。それを生物学では自己適正化というらしいんです。生物が環境変化に呼応して、その都度、自分の内のコードを書き換えて、新たな環境に最適な状態に保つ能力を持っている。それが自己最適化なんです」
 彼はその水草を立体化する過程として、割れにくいシャボン玉を複数作り、それをつなげようと試みる。すると、接触面はまっすぐな平面になりながら、どんどんつながっていくことを見つけた。さらにシャボン玉を、金魚すくい型の網で上に引っ張り上げると、容積を一定に保つために多少縦長にはなるもの、そのまま円筒形になることを見つける。それが富弘美術館の原形イメージになった。
 また、この美術館がイカしてるのは、その円筒と円筒の隙間には天井がなく、野ざらしで草花が自生していて、館内の壁の複数の穴が開いた下部から、その草花が覗けるらしい。おお、それってロマンの素となる「垣間見(かいまみ)」やんか。同時に館内側から見ても、それは柔らかで、風通しのいい空間たりえている。その空間のコンセプトに、ぼくはグッときた。
 一方、建築物の強度そのものも、壁が厚い個別の円筒型より、大小バラバラな壁の細い円筒型の方が上からの圧力には強いらしい。とても示唆的な集団論としてぼくには響いた。正方形やら長方形の均質な建築から、円筒型の大小バラバラな建築への展開。そこに21世紀型社会への自己最適化という希望を感じる。