『シーズ・ソー・ラヴリー』〜故ジョン・カサベテスの秀逸な脚本と、主演ショーン・ペンの圧倒的存在感

 今みたいな時代に、純愛をテーマにどんな映画や小説が描けるのか。その問いかけに、1997年製作の『シーズ・ソー・ラヴリー【字幕版】 [VHS]』は、ひとつの秀逸な回答を見せている。
 チンピラ・カップルの無軌道なラブ・ストーリー、しかも男(ショーン・ペン)は精神病にむしばまれていて、酒に酔った勢いで人を撃ち、重症をおわせてしまい・・・。ぼくがキュンときたのは、退院後のショーンが、初めて会う9歳の娘への一言。
「悪いけど、おまえは必要ない。おれにはおまえの母さんだけが必要なんだ」
 このヒューマニズムの蹴飛ばし方が、その脚本がまず素晴らしい。この一言を主人公に言わせたいために、この映画を作ったんじゃないか。そう思わせるぐらいイカしている。いい父である必要も、よき母である必要もない、ただ、その相手なくしての自分はない。世間体やヒューマニズムより、おれには君が必要だ。この映画のつっかえ棒はそれだけだ。他人の幸福をふみにじろうとなんだろうと、チンピラ・カップルが彼らなりの筋を通して生ききろうとする姿勢によって、その純粋さを描き出そうとする。作品としてのバランス感覚が秀逸。
 いっつも善男善女の主人公で、交通事故や難病による死によって引き裂かれるなんていう、バカが泣くジュンアイ映画をありがたがる、気持ち悪〜い国とはまるで違う。
 製作裏話を見ると、97年に公開された映画の脚本はすでに20年前に書かれていたらしい。10年以上、その映画化を切望していたショーン・ペンと、カサベテス・ファンのトラボルタが共同で出資。カサベテスの息子、ニック・カサベテスが監督をつとめている。
 ショーン・ペンは前半のチンピラ役、あるいは後半の気弱な元精神病患者としての実の娘との対話など、その演技力には、映画を観ながら、ぼくは何回ため息と感嘆をくり返したことか。この映画で、97年カンヌ国際映画祭の最優秀主演男優賞受賞もうなづける。