情報が出れば出るほど本質が見えなくなる「あべこべ」

「おっとぉ〜自民党のマドンナ、野田聖子議員はたった今、反対票を投じましたぁ〜」
 ってな調子で、プロレスの実況中継で有名になったキャスターは、参議院での郵政法案への投票場面を得意げに語っていた。政治をプロレスに、いや、もっというと演劇空間に見立てる、というその手法はとても今っぽい。
 誰もが目に見えるものであっても、それを面白おかしく伝えれば、おそらくアイツらは観てくれる、法案の中身なんて関係ないんだ、というテレビ側の視聴者観を、ぼくはそこに感じた。首相自身が「郵政解散」だと明言しているのに、その「あべこべ」ぶりが興味深い。
 それに呼応するかのように、民放もNHKも今日1日の政界ドキュメントと、政局が今後どうなるかといった解説だけ。肝心の衆院解散の争点となった郵政民営化法案って、そもそもどんなもので、賛成派と反対派の対立点はなにか、といった丁寧な解説は一切ない。それは今日の日経と朝日の社説や関連記事を見ても似たり寄ったりで、日経の社説に「小さな政府」の文字が垣間見える程度だ。
 メディアが情報を流せば流すほど、解散の争点である郵政民営化法案の本質はどんどん見えなくなる。外側は情報がぎっしり詰まっているのに、肝心の中心(本質)が見事に欠落している。近頃、いろんな報道に見られる、情報のバームクーヘン化とでも呼びたくなる構図がくり返されている。
 先の参議院選挙でも自民党の公約だった郵政民営化法案に、野党だけでなく自民党議員が反対して否決されるという「あべこべ」。その一方で、失礼ながら本来は際物(きわもの)の存在であるはずの、プロレスラー出身の大仁田・参議院議員こそが、「大切なのは法案であって、政局じゃない」と、ただ一人まっとうなコメントを出していたという「あべこべ」。
「民間より安い『ゆうパック』を、本当に公務員が扱う必要があるんでしょうか。郵政民営化は民間でできることは民間に委ねるという、小さな政府志向を象徴する公約なんです」
 今朝のテレビで、竹中大臣がどのメディアよりもわかりやすく論点を整理しているという「あべこべ」。さらには部外者であるIMF国際通貨基金)がその報告書で、「法案の一部に懸念は残るが、日本の郵政民営化法案は適切」と指摘しているという「あべこべ」。