新宿西口思い出横丁『朝起(あさだち)』〜大笑いした珍味ショック

rosa412006-02-08

「はい、まずはオッパイからね」
「で、さわやか金玉は、最後のお楽しみということで」
「子宮はコリコリしてて美味しいよ」
「そろそろ、血は出してもいいかな?」
 もう店員さんの会話を聞いてるだけで、大ウケしてしまった。場所は、新宿駅西口から靖国通りへと下る商店街裏、狭い居酒屋が軒をつらねる思い出横丁内の「朝起(あさだち)」。同業者のSさんに連れられて入った店だ。詰めて10人が座れるカウンターと、二階がある。事前予約が必要なすっぽん鍋で二階は盛り上がっていて、冒頭の会話の「血を出して」とは、すっぽんの血のことだ。ただ、会話だけ聴いていると、笑える。
 この日は、オオサンショウウオの網焼きからスタート。小さなトカゲみたいなやつだが、小ぶりなシシャモみたいな食感。続いて、豚のおっぱい焼きは、軽く塩をふってあり、1㎝大の厚みで歯ごたえもあってイケる。ホルモンですね。小休止で、銀杏とシイタケを焼いてもらい、大ぶりのほっき貝を注文。これが新鮮で、歯ごたえはいいし、甘い。下手な築地の寿司屋より、鮮度がいい絶品だった。
 Sさんは、横丁内の他の店の人が、この店に貝類を買いに来るのを目の当たりにして、ここは信用できると思ったらしい。たしかに、ホッキ貝の鮮度はそれを納得させる。最後は、豚の子宮に刻みネギとしょう油をかけて生でいただく。コリコリした食感。ビール一本と芋焼酎、お酒を一杯ずつで、一人3500円。この驚きと楽しさで良心的な値段だ。
 なにより、70代というマスターが、漫画家の望月三起也似で、血色のいい顔してるんだなぁ。クイズ好きで、すぐヒント出してくれて、難問ゆえに苦しんでいると、答えもすぐ教えてくれる。すっぽん鍋が1万円と聞き、もうちょっと儲けたらいいんじゃないんですか、とぼくが言うと、
「でもさ、そんなことより、お店がいっぱいになってくれるほうが嬉しいんだよなぁ」
 こういう言葉に出会うとホッとする。心の温度が1、2度上がる気さえする。すっぽんはご主人みずから、現地(築地ではなかった)に仕入れに出かけるらしい。
 文章を書く人間でも、居酒屋を経営するご主人でも、その仕事の何に優先順位を置くのかは、顔に出るぞと、改めて心に刻ませてもらった。