西川美和監督『ゆれる』〜水と人の感情をシンクロさせる名作の誕生

rosa412006-08-02

 「水」の使い方がうまい。
 ステンレス製の流し台にゆったりと広がる水の場面から、映画は始まる。女性の溺死を暗示する川の激流。ガソリンスタンドで働く兄がキレて捨てたホースが、噴き出す水の勢いだけでくねくねと曲がる無音の画面。何度も表れる吊り橋のシーンと川の音。そして幼い頃の8ミリビデオを見て号泣する弟の涙。
 作品の要所で登場する「水」は、登場人物たちの感情の「ゆれ」を代弁し、あるいは補足する。その「ゆれ」は吊り橋の「ゆれ」同様に、主人公たちの心理の「ゆれ」へとつながり、それが映画そのものを意外な展開に導いてもいく。
 一人の女性の死をめぐって、揺れ動く兄弟の心理劇だ。去年の『オペラ座の怪人』以来、こんなにグッときた作品はない。俳優陣では、当初はオダギリ・ジョー目当てだったけど、香川照之の圧倒的な押し出しって感じ。脇役ではキム兄こと木村祐一や、邦画では売れっ子若手俳優新井浩文も、それぞれ山椒は小粒でもピリリと辛い味を出している。
 雑誌でちらっと見た、この『ゆれる』西川美和監督は小柄でクリッとした目のかわいい女性だったが、彼女の人の心の奥底を見据える視線は、深くてえげつない。えげつないからこそ、人の心を揺さぶることができる。ぼくの文章にないもの、人の心を斧で叩き割るような強い表現はそこから生まれる。
 また、兄弟や親子関係がしっくりいってない人が見たら、最後の方でもらい泣きしてしまうかもしれない。ちなみに、ぼくもそこでヤラれた(^^;)。
 だって、人間の身体の3分の2は「水」でできているんだからさ。