決断できない「いい子」たちが招いた結末(3)〜冨山和彦氏談

 およそ60年前、繊維産業が日本の顔だった時代の「トヨタ」だったカネボウが、なぜ落日を迎えたのか。その命題について、冨山氏は、10年前に繊維事業からいさぎよく撤退していれば、今なお堅調な化粧品部門を軸に経営は磐石だったのにという、マスメディアの論調は上っ面の意見にすぎないと断言した。
「数年のズレはあっても、ほぼ同期入社の10人の取締役中、5人が繊維部門の担当役員だったとすれば、その取締役会が繊維部門の撤退を決議できますか?それぞれが『いい人』たちで、仲間思いであればあるほど決断できません。経営には、そういう論理と情理の耐えざる葛藤がある。そこには人間の記憶や感情、業などさまざまなものがからんでくる。そういう理と情の両面から見ないと、どんな批判も問題の核心には届かない。合理的判断だけでも企業経営はできないし、一般社員と向き合って涙を流して苦渋の決断を下す情理の部分も欠かせない。カネボウ粉飾決算問題の主犯は、本当にいまだに不明なんです」
 彼の舌鋒は、マスメディアの報道姿勢にも向けられている。何をどこまで見て、どのように考えて語るのか。フィールドは違っても、それは書き手である僕自身にも向けられているように思えて、ゾクッとさせられた。 
「だから、六本木ヒルズでこういうことを言うのも何なんですが、子どもが経営しちゃあ駄目なんですよ」
 予想以上に濃厚な経営論、いや、いかに物事や人間の本質をとらえて生きるかという点では、含蓄ある人生論でもある。最後に、このトークセッションは、リクルートエグゼクティブエージェント主催で行われた。昔からの友人、I氏のお誘いに感謝。(了)