トマト苗の鉢の雑草を 

rosa412007-05-14

 雑草取りは面白い。北海道のある牧場のビニールハウスで、ぼくはトマト苗の小さな鉢に伸びた雑草を切る作業をしていた。高さ20センチ程度の、実はないくせに、その緑の茎と葉はトマトの強い匂いをはなつ。直径7センチ、深さ10センチの鉢の土の養分をその苗だけに吸い上げさせるのに、雑草は邪魔もの。
 ビールケースに腰掛けて、黙々とその作業を繰り返していると、自分にとって不可欠なものとそうでないものも、きちんと見分けないといけない。そんな考えがふいっと浮かんだ。・・・・・・うーん。
 好きな仕事と奥さん。互いの両親と友だち。走ることと筋トレ。ピピッとくる本と、奥さんの手料理。それだけあれば、笑ったり泣いたりしながらなんとか生きていける。
 1時間もその作業をつづけていると、腰が張ってくる。そこで立ち上がって体操したり、前後に屈伸しながらつづけていると、ふいに思い出したことがある。
 まだ子どもの頃、ぼくは江戸川乱歩の「怪人二十面相シリーズ」に夢中だった。時折、家族と外食に出かけるときにさえ本持参。歩きながら、「わっ、二十面相って郵便ポストに化けちゃったよ。すげぇ〜!」なんて心の中でつぶやきながら、むさぼるように読んでいた。二十面相の神出鬼没な展開には、心の底からワクワクさせられた。
 そのことを思うと、今の自分もけっこう神出鬼没なことに気がついた。その日の早朝は、牛への餌やりと糞掃除がぼくの仕事だった。先月は認知症の人たちのグループホームで、お年寄りたちと一緒に食事をとり、氷川きよしのライブDVDを並んで観ていた。かと思えば、大手町で慣れないネクタイ締めて、ビジネスマン相手にMDプレーヤーを回していたりもする。ふふふふっ、我ながら面白い。
 しかし、これまた面白いぐらいにお金はたまらないし、いや、むしろ足りない。一長一短はまるで影のようについて回る。トマトの苗に伸びる雑草を、日々の生活の中でもしっかり峻別しないと。