念願の三岸好太郎美術館(2)〜「虚無ヨリ生活ヲ始メタ」 

rosa412007-05-18

 白々とした疎外感が目を引いた。美術館1階の最初のコーナーにある1枚の絵のことだ。黒味を帯びた深い緑に囲まれた、芝生の上に座る一組の男女。女は鎖骨から首までが白いレース編みで、少し暗めのオレンジ色のロングドレス。男は黒いセーターに茶色のズボン姿。女性の首元に合わせるかのように白いマフラーを巻いている。「二人人物」という表題で、大正12年製作の初期の作品。
 構図自体は、恋人たちの穏やかな時間なのだが、二人の顔はその構図に開いた穴ぼこのように見えた。どちらも厚くピンクやオレンジで塗り込められていて、無機的な仮面めいていた。それまで穏やかだった旋律が、唐突に、ある小節だけ耳障りな音に転調するような印象とでも言おうか。その構図の平穏さを穿ち、食い尽くすような疎外感に見えた。その後、2階のビデオで、ぼくはその男性が子ども時代の好太郎とそっくりであることを確認することになる。
 その隣の絵も、似たトーンだった。「兄及ビ彼ノ長女」と題された絵は、父と4、5歳の娘が籐椅子にでも深く腰かけ、改まって記念写真でも撮っているようなもの。背景は先の男女の絵と同様の、黒味を帯びた深い緑に囲まれている。大正13年製作。
 やっぱりな。次のコーナーに進むと道化師を描いた連作が並んでいて、ぼくは自分の直感が正しかったことを確信した。現実のものでありながら現実ではない道化師という存在。現実に自分の居場所を見つけられない画家は、そこに自らを投影していた。