TBS情熱大陸『古谷千佳子』(海人写真家)〜「物狂(ものぐる)ほしい」の輝き 

 古谷さんの撮った、沖縄のオジイ海人(うみんちゅう)たちのモノクロ写真がカッコイイ。彼女のHPのギャラリーページをぜひ見てほしい。
 オジイたちは、働くことと生きることをきれいに重ねている人の、風格と威厳に満ちている。それは顔の美醜や、年収の多寡とはあまり関係がない。古谷さんが、彼らオジイ海人に魅了された理由もよくわかる。
 一方、彼らを追いかける古谷さんの人生にも、余分なものはあまりない。
 普通のOLから海人に転身し、さらに海人を追いかける写真家になる過程で、いろんなものを捨てていったのだろう。3LDKの自室は、現像所兼荷物置き場で埋まり、二段ベッドの上の寝台だけがぽっかりと空いているだけ。37歳独身の住まいにしては、女性っぽいものは見当たらない。
 昔、古典の時間に習った「物狂ほしい」という言葉を思い出す。「気が変になりそうだ」とか「気ちがいのようだ」という意味だが、テレビを通して見る古谷さんは、まさに物狂ほしいほどに海人たちを追いかけている。相手への敬意と憧憬を胸に、仕事の邪魔にならないように注意しながら、漁を追って海に潜り、獲れたての魚の刺身を、軽く海水につけてうまそうに頬張る。「物狂ほしい」こそが、取材する人間の原点。テレビを観ていると、なんか身体じゅうの血が煮立ってきた。