見えない身体(2)〜夏の疲れと冷えに蝕まれる 

 右腰の上辺りを痛めた2日後、ぼくは知人Kさんご夫妻の紹介で、マッサージ師Hさんのマンションを訪れた。
 突然の痛み以来、右足に体重をかけるのが怖くて、もっぱら重心を左足にかけ、自宅でも壁に手をついて身体を支えないと歩くのも覚束ない状態。仕方なくタクシーで出かけた。 
 そこで予想外の痛みを知る。
 痛めたのは右腰の上、それ以来、右足は満足に使っていないはずなのに、右の内腿から脛(すね)にかけて、揉まれるとやたらビリビリと痛んだ。重心をかけている左足ではなく、むしろかばっている右足の方が硬くなり、過度な緊張状態にあった。
「痛めた右腰を守ろうと、無意識に筋肉が固くなって過剰防衛状態にあるんですね」
 Hさんは穏やかな声でいう。彼の言葉と、その指の触感をとおして、ぼくは自分の身体の内側をあらためて探検しているような気分になる。
 8月の終わり頃から、突然の腰痛で駆け込んでくる人が増えているらしい。
 ちょうど夏の疲れが出る頃で、夏の間はシャワーで済まして入浴せず、冷房と冷たい飲み物の摂取ばかりで過ごしてきた人が多い。ぼくのように、年甲斐もなく走ったり、筋トレや水泳と運動している人は、とくに運動後は15分前後の腰湯でいいから、身体を温めて筋肉をほぐさないと危ない。疲れがたまる一方で、冷房と冷たい飲食だけでは身体がほぐれる暇がなく、いたずらに疲れだけを貯めこんでしまう。
 そして今回のぼくみたいに、突然、動けなくなる。