横山大観展〜いかに描かず、いかに描くか(2)  

 今回、とりわけ2点が心に残った。
 まずは、ボストン美術館所蔵の「帰牧図」(1904年)。左肩上がりの山道を馬をひいて上る人と、それと交錯する滝に焦点を当て、主に茶色で描かれた縦長な構図。だが絵を包囲する白地の方が多い。その余白が観る側の想像力を刺激し、縦長の構図に、むしろ広がりを与えている。文章で言う「行間」を担っている。


 もうひとつは、メナード美術館所蔵「霊峰十趣・夜」(1920年)。富士を思わせる山の左に上弦(じょうげん)の月がうかぶ。その富士は、灰色に少量の藍と銀色?を混ぜたような微妙な枯れ色で、月も長年の埃をかぶったかのように、その輝きは鈍い。彩(いろど)りを殺した「夜の霊峰」は、観る側の想像力をことさら誘ってくる。


 この2点にもっとも心惹かれた。だから出口まで来て、この2点を観に、人ごみの中を再び戻った。余白の使い方、あるいは色の抑制の仕方。まるで違う引き算によって、両作品に見事な奥行きを与えている。