マリオ・ジャコメッリ展(東京都写真美術館)〜黒のレトリック 

rosa412008-04-23



 死と生はうらおもて。生まれるというのは、死にはじめることだし、死ぬというのは、それまで生きてきたということ。その「うらおもて」ぶりを、白と黒の2色の世界で、時にシュールに、時にエレガントに切り取ってみせたジャコメッリ。だいすき!


 彼のモノクロ写真が写す「黒」は、星のない夜空にも、あるいは地面にぽっかりあいた穴ぼこにも見える。それはどこか、大島弓子がその漫画作品に時おり挿入する、一面真っ黒なページにぽつんとうかぶモノローグを思い出させる。そんな黒が、被写体をいっそう平たく薄っぺらく見せ、個々の作品の「うらおもて」感を強めている。うまいなぁ。だって、いまにもクルッと回転して、のっぺりとした闇の世界が現われそうなんだもん。


 それは幼少期、父親が早く他界し、ホスピスで働きながら生計をささえた母親を通して得た死生観とも、つながっているはずだ。ただ、あえていえば、他のシリーズにくらべて、母の仕事場であるホスピスで死を待つ人たちの写真が、他の表現とくらべて弱い気がする。


 バイオリンとアコーディオンのデュオ「シエスタ」の2人を誘って、そのマリオ・ジャコメッリ展(東京都写真美術館で5月6日まで)へ出かけた。みんな死を嫌い遠ざけるから、今を生きるということがおろそかになり、エネルギーが薄くなってるね、と3人で話してうなづき合う。この3人だと、何事も説明がいらず、話が早い。