インタヴューの神様(2)〜大阪・御堂筋通りでの思い出

 企画の趣旨を手短に説明して、ぼくは練りに練った最初の質問を口にした。
「横山さん、お好きな政治家はいらっしゃいますか?あるいは、嫌いな政治家の方でも構いません」
 その年の参議院選挙で、故・横山やすしさんは、「風の会」から出馬していた。
「にいちゃんな」と、その髪の毛に白いものが目立つ彼はまず言ってから、こうつづけた。
「こどもにな、どんな大人になりたいか?なんて訊いたらアカンやろ、ふつう」
「・・・・」


 まるで予想外の答えだった。
「あっちゃぁ!」と心の中で思いながらも、ぼくはつとめて平静を装った。それから一方的に選挙とはまるで無関係な話を始めた彼の話に耳をかたむけ、意識的に顔を彼に近づけ、大きく相槌をうちつづけた。すると、そのうち、呼吸のタイミングが合ってくる。ぼくが笑うと彼も笑い、彼が深刻そうな表情になると、ぼくも似た表情をする。よし、チャンスだとぼくはひそかに思った。もう1回トライできる。


 じゅうぶんに間合いをはかり、彼の言葉尻をとらえて、ぼくはもう一度質問した。
「横山さん、小沢一郎さんと、竹下登さんなら、どっちがお好きですか?」
 たとえ1行でもいい、彼の政治にかかわる発言を引き出してくるのが、ぼくの仕事だった。
「だから、にいちゃんな」
 嫌な予感のする出だしだった。
「さっきも言うたけどな、小学生相手にな、どんな中学生になりたいですか?って訊いても答えられへんやろ、ふつう」
「・・・・」


 ぼくは悪意で、このエピソ―ドを紹介しているわけではない。
 当時、長らく舞台から遠ざかっていた彼は、見た目も白髪が目立ち、まるで威圧感は感じさせなかった。体力的にも30歳前のぼくが負ける要素は、ひとつもなかった。それでも、いったん横山さんが口をひらくと、その言葉のオーラにぼくは完全に呑み込まれていた。まるで抗えないのだ。ああいう感じは、20年近い中であの人しかいない。凄まじいオーラだった。「なんで、俺が負けるわけ?」―そんな自問自答を、雨の御堂筋通りとぼとぼ歩きながら、ぼくは繰り返した。


 この話を思い出したのには理由がある。
 16日、ぼくはインタヴューで空回りする自分をひさしぶりに感じた。この雨の御堂筋以来のこと。それも、北京五輪企画最後の取材でだ。その帰り道、途中で、急行から普通電車に乗り換えてボーッと車窓の風景を眺めやりながら、取材内容を反芻してみた。インタヴューの神様が「調子に乗るな」と仰ってるんだ。ぼくの反省癖がしばらくして、そんな答えを見つけてきた。(おわり)