自分の仕事に誇りを育む方法


「喧嘩を売られたような気分だよ」
 ブラウン管の向こう側で、宮崎駿が怒っていた。それは、映画『崖の上のポニョ』の主人公である男の子のカットを担当するベテラン・アニメーターに向けられてた。男の子のカットの背景を飛ぶ小さな鳥が、少しも飛んでいるようには見えないという糾弾。宮崎さんの仕事観が強く匂い立つ場面にドキッとした。


 その言葉の刃(やいば)が、誤字や事実誤認を時おり招いてしまう、ぼくの仕事ぶりにも向けられたような気がした。そのディテールへの甘さは、そのまま原稿全体の甘さになる。頭ではわかる。だが、実際には、まだまだ甘い。NHK『プロフェッショナル』90分拡大版の、宮崎駿スペシャルでのこと。


 あとは、人面魚ポニョが人間になり、主人公の男の子と再会し抱き合う場面。スタッフの作画にポニョの喜びが感じられないと、全身が力んだために反り返るポニョの右足の動きと、抱きついた両脚に力を込めたせいで、パンツに皺が寄る部分を、宮崎さんが書き添えていた。それらの執着が、アニメーターとしての彼の矜持。自分の仕事に誇りを育む方法でもある。


 そういう手入れは同時に、宮崎さん自身が、登場人物たちの心理を想像する機会にもなっている。そこも興味深かった。そこで登場人物たちが新たな表情や仕草を与えられ、細部が躍動することで、物語全体が息吹きだす。宮崎作品の真髄を目の当たりにした場面だった。ああ、もう一回観たくなってきたぞぉ。民放的な露骨な下品さはないものの、これって絶妙な番宣?いや、映宣?