ちあきなおみ大全集(NHK-BS2)
わずか5分強の歌を聴いただけで、もうビフテキ3枚ぐらい平らげたような満腹感だった。
ちあきさんの「朝日のあたる家」の映像を、画像が少し悪いがまず観てほしい。
これだけでもじゅうぶんに凄まじいのだけれど、今夜放送されたバージョンは、ニューオリンズの朝日楼という女郎屋で生きる女をまさに朗々と歌い上げた後、彼女はにやりと笑ってみせた。その瞬間、ゾクゾクッとした。
それはうらぶれた女の棄てばちな思いなのか。それとも、その運命にあくまでも立ち向かおうとする覚悟の表現なのか。おそらく観る人の数だけ解釈があるかもしれない。
いずれにせよ、なんて奥行きある「行間」の創り方なのだろうか。
この瞬間、先日来、ちあきなおみがなぜ、ぼくの心を占拠していたのかがようやくわかった。
まず、「その歌の世界に入り込んで自らの喜怒哀楽をざわめかせて、その時間を生き切ろうとする」彼女がいる。一方で、観衆から自分がどう映るのかを吟味する演者としての彼女もいて、その拮抗するバランスが創りだしている世界。その両方が必要だった。
彼女の歌とその歌う姿勢に圧倒されながら、ぼくは合わせ鏡のように、自分の薄っぺらさを垣間見ていた。