NHK教育『小津安二郎は落語だ』(第一回)まるで小さんのように

 黒澤映画は講談で、小津映画は落語。
 落語家・立川志らくによる、じつに魅惑的なキャッチコピーだ。実際、そのタイトルに心惹かれた。『小津安二郎は落語だ』の第一回。


 とくにドラマティックというわけでもなく、淡々とした日常をつづり、セリフの反復も目立つ。それも一見なんということのないセリフが多い。なるほど、たしかに落語の熊さん、八っつあんのやりとりとも似ている。


 相違点は、小津映画の対話はとても抑制されている点。
小津は「セリフの半音の上げ下げにも厳しかった」と女優・香川京子が言えば、「まばたきひとつも、先生が決められていましたから」と名優・笠智衆のコメントが紹介される。そのうえ、登場人物の感情も抑えられている。


「きれいな夜明けじゃった。今日も暑ぅなるぞぉ」
 長年連れ添った妻が亡くなったとき、家族がそろった室内ではなく、戸外で棒立ちしていた笠はそうつぶやいて、妻の亡骸と対面しに家へ戻ってくる。代表作『東京物語』終盤の名場面。高台から入江か港でも望んでいたのだろう笠を通して、生と死が描写されている。


 感情が極端に抑制され、悲しみを表すセリフもないからこそ、それを観る者は笠の心中をそれぞれに察せずにはいられない。その過程で各自が鼻奥の粘膜をつんつんと突(つつ)かれることになる。それは名人・柳屋小さんのような抑制のきいた名人芸だ、と志らくが締めくくった。
 おあとがよろしいようで。