心に風を通す日(1)〜裸足のひんやりむにゅ感覚

 太股からスネにかけて虫にさされるのを覚悟で、短パンと裸足で田んぼに足をいれる。ひんやりした水温と、トロトロ層が適度に堆積した田んぼの、あのむにゅむにゅした感触が足裏にここちいい。猛暑日に水風呂で火照った身体をさますかのように、思わずフーッとため息がもれる

 ただ、水のたまった畑めいた状態から、みんなで試行錯誤しながら水漏れ穴をふさぎ、代掻(しろか)きをして、水を2週間張った約一反(いったん)ほどの広さの土地は、いい感じで「田んぼ」になっていてくれた。

 薄茶色の麻ひもに30センチ感覚で巻いた黄色いビニールテープを目安に、3本ずつ緑色の苗を植えていく。どこか猛々(たけだけ)しい里山の濃厚な新緑、日曜日早朝の青空、カエルやウグイスや、名前も知らない鳥たちの鳴き声、田んぼを移動する度に足元に立つ水音などで縁(ふち)どられた風景に、自分もゆっくりと透きとおり静かに溶け入っていく。

 なぜか小学校から中学校の頃好きだった桜田淳子や、岩崎宏美の歌を口ずさむと、けっこう歌詞を覚えている自分に気づいて頬がゆるむ。
 
 京都府綾部市の駅からバスで40分ほど走った里山で、農業をしていた母方の温厚で寡黙だった祖父の、小柄な身体には不似合いだった銅褐色の太々しい二の腕が、ふいに思い出された。小学校5年生での人生初の一人旅は、夏休みに出かけた、祖父や祖母が暮らす茅葺き屋根の一軒家だった。