あのミズナラのような歌〜中島みゆきLIVE歌旅(wowwow)


 ひさしぶりに「ファイト!」を聴いていたら、ふいに刺さった。
 彼女の歌い上げ方のせいだ。最初の「ファイト!戦う君の歌を、戦わないやつらが笑うだろう」は、まるで小学生みたいな歌い方で入る。それが歌いすすむにつれて、少しずつ強く、激したものへと変わっていく。歌がすくい取る細部の凄みは今さら書くまでもないが、それに加えて、堂々たるエンターティナーぶりが、より大きな物語へとふくらませている。


 この歌は、中卒の女の子からのラジオへの投書をきっかけに生まれたような説明が、下のyoutubeの冒頭にあるけれど、その真相はよくわからないし、たいして重要でもない。誰にでもかなわない夢や希望があって、それは小学生にも、50歳目前のおっさんも同じこと。だからこそ、彼女の歌唱がそれぞれの無念をきれいに拾い上げ、世代をこえた広がりをつかみとっている。


 昔、北海道で樹齢約300年のミズナラの樹皮に耳を当ててみたことがある。ある樹木医の方と、彼が治療している美唄富良野周辺の樹々をめぐったときのことだ。
 その樹は、ぼくの両手を広げてもまるで届かなかったから、周囲2m50㎝は裕にあったはずだ。しばらくすると、チョロチョロという音が聴こえてきた。大樹が大地から水を吸い上げる音で、樹木医はそれを樹の声と呼んでいた。


 中島さんの「ファイト!」に気圧(けお)されながら、ぼくはあのミズナラのことを想い出していた。時間の流れに古びないというより、むしろ時間の流れをひそかに吸い上げてその幹を太くし、枝を広げ、すっくと立つあの樹のような歌。そういう歌と歌い手と、同じ時間を分かち合える幸せに胸がじんとして、頭がしばらくボーッとなる。


<ラジオ録音&上記wowwow版の映像と思われます>