ウルトラの賜物〜柴又60km走(2)


    51キロ過ぎだった。給水所で冷水をかけたせいか両方の大腿筋の張りが消え、意識が妙にクリアになり、周りの風景がよりくっきりと目に映った。そのとき骨と皮と前進する意志だけに削ぎ落とされた自分をはっきりと感じた。ゴール目前でにわかに元気になるのとは違う、もっと透明感のある自分で、時間にすれば5分ほどで長続きはしなかったが、人生初のゾーン感覚だった気がする。
 左肩の鎖骨や肩甲骨などを骨折してからちょうど1年。まだ若干の違和感は残るものの、自信になる復活ランにもなった。


    給水所で意外とおいしかったのは、カルフォルニアレーズンと海苔なしの握り酢飯、レース後半に並べられたコーラ。普段は飲まないコーラだが、スポーツドリンクにはない甘みが舌にうれしかった。
    それ以上に生き返らせてもらったのが、大きな氷が入った水を柄杓(ひしゃく)ですくって、首から背中にかけてもらうこと。この冷たさと気持ち良さのバランスが絶妙。パンツやシューズも当然濡れるから普段の練習ではあまりやれないが、頭からかぶる水以上の心地よさだった。


    結局、60km走は約1100人が出走して、完走者は男子531人と女子107人。完走率は約6割。ぼくは7時間54分の259位で半分から少し上か。でも制限時間は9時間だったから、残り1時間しかなかった。100KM走は、約2000人の出走で完走者は男女合わせて633人。これも32度を超える暑さのせいだろう。
    暑い中、コース沿いで給水や警備に当たってくれたスタッフの皆さんや応援してくれた方々、ともにドM魂を燃焼させたランナーの皆さんにも心から御礼を申し上げたい。とても1人では走りきれませんでした。