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山田昭男著『ホウレンソウ禁止で1日7時間15分しか働かないから仕事が面白くなる」(東洋経済新報社8月刊)

大手書店のベストテンランキングにこそ入り切れませんでしたが、私が取材協力したビジネス書が、この出版不況にこつこつ8刷り出来となりました。朝日新聞日曜版の書評欄に紹介されたことも、大きな後押しになりました。 年末のビジネス雑誌の今年のヒット本…

2012年の孤高の描き方〜イーユン・リー著『千年の祈り』

千年の祈り (新潮クレスト・ブックス)作者: イーユンリー,Yiyun Li,篠森ゆりこ出版社/メーカー: 新潮社発売日: 2007/07/01メディア: 単行本購入: 6人 クリック: 69回この商品を含むブログ (79件) を見る 従妹との結婚で障害のある子供を授かった夫婦や、一人…

「囚人」の切れ味 〜 イーユン・リー『黄金の少年、エメラルドの少女』

束の間でも我を忘れられるなら、できるだけ巧妙に、そして甘美にだまされたい。うすのろな日常を生きているからこそ、人は大なり小なりそんな願望を抱えている。恋愛も、詐欺も、そして小説も、それらに手を伸ばす人の心の隙間はとても似ている。そしてイー…

わたしたちの、わたしたちによる、わたしたちのための被爆〜 吉見俊哉『夢の原子力』

開沼博『フクシマの正義』でも指摘されているが、「原子力ムラ」と一部の利権保有者たちを悪者扱いして溜飲を下げているだけでは、社会の本質は何も変わらないという視点に、とても共感する。なぜなら、原爆と同じエネルギーを「夢の力」として受け入れ、世…

旋律として、あるいは詩としての輝き〜高橋源一郎著『非常時のことば』

名作『さよなら、ギャングたち』以来、ひさびさに手にした高橋本は、「3・11」を機に言葉を失った高橋さんが、古今東西の非常時に遭遇して書かれた美しい言葉たちを集めた一冊。 文章を読む際、つい意味に重きをおいてしまいがちな読者をよそに、幼き水俣病…

道草ナビゲーション〜植草甚一『ジャズの前衛と黒人たち』(晶文社)

すこし肌寒い朝に目覚めて、どっかりとソファーに座り込む。終日の雨模様に、手持ち無沙汰でリビングテーブル前の本を手に取る。先日、打ち合わせからの帰りに自宅最寄り駅を通り過ぎ、二駅先で降りてぶらぶらしていて見つけた、ジャズ評論の故・植草甚一さ…

9月16日(日曜日)付け朝日新聞読書欄掲載の書評

世の中全体が騙し絵っぽくなってきたから、一見非常識そうだったり、絵空事にも見える表現にスポットライトが当たりやすくなっているのだとしたら、今の世の中もまんざら悪くはない。 読みにくい人はデジタル版をご参照ください。

元外交官の知の鍛錬法〜佐藤優著『読書の技法』

まず、この逆説による切り込み方にウッとなる。 基礎知識は熟読によってしか身につけることはできない。しかし、熟読できる本の数は限られている。そのため、熟読する本を絞り込む、時間を確保するための本の精査として、速読が必要になるのである。 速読と…

佐藤優著『読書の技法』(東洋経済新報社)〜5分間の超速読と30分間の速読

読書の技法 誰でも本物の知識が身につく熟読術・速読術「超」入門作者: 佐藤優出版社/メーカー: 東洋経済新報社発売日: 2012/07/27メディア: 単行本購入: 10人 クリック: 361回この商品を含むブログ (68件) を見る まだ読みかけだが、この本にある超速読を、…

川田修著『仕事は99%気配り』〜立ち戻るべき練習

王貞治が一本足打法を体得するため、畳が擦り切れるほどの深夜の素振りとともに、真剣でわら人形を斬り落とす練習を積んでいた逸話は有名。おそらく、それはボールの芯をきちんと叩くアプローチのひとつで、ある一点に刃先が一定の角度でヒットしないと、わ…

池田晶子『14歳からの哲学』〜行間は高らかに歌う

山あいの細い道をうんざりするくらい黙々と進み、ふいに視野が開けて高台や頂(いただき)に出る。あのときの清々しい高揚感を思い出した。 この本は前半70ページほどがとりわけ難しい。 哲学用語を使わず、ひらがなを多用して書かれてはいるものの、「自…

池田晶子『14歳からの哲学』〜かっこいい大人

オレって駄目だなぁと。 近頃、そう痛感させられることがいくつか続いた。 そんなときに、柄にもなくこんなことを考えてしまう。いったい、どうやって「大人」になっていけばいいんだろうか、と。 相手の言葉や思いを、心の手前ではなく、奥までしっかりと引…

引きずり回される遠近法 〜池田晶子『41歳からの哲学』

同じ大きさの小舟を縦に並べて二つ描いてみる。 上の舟のさらに上に水平線となる直線と、雲を表すモクモク線を引けば、上の舟のほうがより遠くにあるように見え、実際に見えているよりは大きな舟、ということになる。あるいは、まるっきり同じ形の大きな家と…

タイラー・コーエン「大停滞」〜日米の「マトリョーシカ」信仰

容易に収穫される果実は食べ尽された――そのキャッチコピーに惹かれて、気鋭の米国人経済学者の本を手に取ってみた。だが、低成長構造に陥った米国のシステム分析よりも面白かったのは、先の米国の金融危機の本質を、米国人の自信過剰だと看破した部分。一部…

山田詠美「ジェントルマン」(講談社) その文章を目で追いながら、むしろ、その句読点が刻む旋律や音節をこそ、 自分の耳が追っていることに気づいた。ひとっ走りした後、飢えた野良犬みた いに大量の水を飲み干しながら、じつは喉が鳴らすゴクンゴクンとい…

「常夜燈」から「ヒミズ」へ(3)

安藤忠雄事務所玄関前の貼り紙にグッときて、このまま東京で帰るのがさらに嫌になった。地下鉄で心斎橋に出た平日午後、ひさしぶりに商店街を道頓堀までぷらぷら歩く。 道頓堀のTUTAYAまで来て、ふいに今年の手帳を物色する気になって立ち寄る。そこで見つけ…

山内令南著『癌だましい』(文藝春秋)

読み終えたとき、ロシアのマトリューシカという人形が思い浮かんだ。開けても開けてもより小さな同じ人形が出てくる、あれだ。 小説は身も蓋(ふた)もない。祖母や両親を次々と癌で失ってきた、40代半ばの独身女性が食道癌を発症する。彼女の唯一の趣味は…

丹羽順子著『小さいことは美しい シンプルな暮し実践法』(扶桑社)

ぼくにとってのこの本の肝は、以下の部分にある。 何が楽しいか、大げさに言えば、それは「自分たちの生き方を、自分たちで決める」というやりがいです。結局、今の問題は衣食住に関わるすべてのことをほかの場所に「丸投げ」してしまっていることだと思いま…

丹羽順子著『小さいことは美しい シンプルな暮し実践法』(扶桑社)

「小さいことは美しい」 シンプルな暮らし実践法作者: 丹羽順子出版社/メーカー: 扶桑社発売日: 2011/09/01メディア: 単行本この商品を含むブログ (1件) を見る 丹羽さんから初めての著書を送っていただいた。一筆箋で簡潔だけれど、誠実な人柄が薫る御礼が…

福田繁雄『DESIGN 西遊記』

きわめて本質的であることは攻撃的でもある。 そのことを、福田さんの本を読んで教えられた。黄色の背景に、戦車の黒い大砲から出たはずの黒い弾丸が逆さまに戻っていく瞬間を描いたポスターを、どこかで見た人も多いはずだ。表題が「VICTORY」という…

渋沢英一著『現代語訳 論語と算盤』(ちくま新書)

まず、タイトルがいい。 そして40代後半になってこそ、沁みる言葉というものがある。その生涯で470社もの会社を設立させた人物ゆえの余裕とも読めなくもないが、「論語」を自らの指針とした彼の人生観とも読める。旧くて新しいからこその古典。本書の中…

鈴木紀慶編著『倉俣史朗 着想のかたち』(六耀社)

倉俣史朗着想のかたち―4人のクリエイターが語る。作者: 平野啓一郎,小池一子,深澤直人,鈴木紀慶,伊東豊雄出版社/メーカー: 六耀社発売日: 2011/03メディア: 単行本 クリック: 2回この商品を含むブログ (3件) を見る 4人による空間、あるいはインテリア・デ…

白洲正子『金平糖の味』

金平糖の味 (新潮文庫)作者: 白洲正子出版社/メーカー: 新潮社発売日: 2010/10/28メディア: 文庫 クリック: 3回この商品を含むブログ (6件) を見る じつに濃厚な味わいで、何度も読み返さないと飲み下せない、いや、何度読んでも駄目かもしれない。 それほど…

「エッシャーに魅せられた男たち」(2)

もうひとつ、この本でハッとさせられたのが、あとがきの部分。筆者の野地さんが立ち寄ったニューヨーク近代美術館で出会した光景だ。美術の先生が20人ほどの子供たちに教えていた絵画の鑑賞法。 「さあ、ひとりずつ絵の前に立って。キャンバスから十センチ…

野地秩嘉著『エッシャーに魅せられた男たち』(光文社知恵の森文庫)

何かにたぶらかされる人間を描いてみたい。40代に入った頃から、漠然とそんな夢をもつようになった。きわめて常識的な人たちから見たら、そんなものに、なぜ、そんな時間や大金を費やしたの?といった類の人たちのこと。だから、吉祥寺のビレッジバンガード…

佐野洋子著『シズコさん』(新潮文庫)

最初にのけ反ったのは、冒頭の「私はずっと母さんが嫌いだった」という一文の後ろに、「本当は好きになりたかったんだけれど・・・・・・」という書き手の感情が、はっきりと見てとれたこと。 それは母娘の強い絆ゆえではなく、その一文の後ろに筆者である佐…

服部文祥「サバイバル登山家」(みすず書房)

先日、紀伊国屋書店で、小さく平積みになっているこの本を見つけて、裏表紙をめくると12刷りだった。いい本はしっかりと読まれていることをうれしく思う。 スーパーで肉を買い、自分の手を汚さないで食べるほうが、ケモノを殺す狩猟者よりよほど野蛮である…

「競わない生き方」のススメ〜週刊SPA!11月23・30日合併号

ひさびさに「SPA!」で仕事をさせていただきました。4P特集「競わない生き方」のススメ。少子高齢化と不景気のダブルパンチに沈む世の中でキャリアアップを目指すのではなく、転職&減収をへて、自分の性に合った働き方を見つけた「ダウンシフター」た…

山田昭男著『ドケチ道』(東洋経済新報社)

朝日新聞今月14日(日)の書評欄に、わたしが関わった「ドケチ道」の書評が掲載されました。「痛快な経営指南書である」から始まる、とても好意的な文章です。クリックして御覧ください。 これで大手書店の新聞書評欄コーナーで、ふたたび多くの人の目に触…

服部文祥著「サバイバル登山家」(みすず書房)

サバイバル登山家作者: 服部文祥出版社/メーカー: みすず書房発売日: 2006/06/20メディア: 単行本購入: 1人 クリック: 66回この商品を含むブログ (33件) を見る ひさびさにヤバい映像を観た。TBS情熱大陸で、服部が猟銃で仕留めた母鹿をその場でさばき始…