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遅ればせながら、ムンク展覧会(国立西洋美術館)〜あまりにロゴス(思想)な画家 

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2日は、美術館に行こうと決めていた。予備知識なしで絵や写真とただ向き合い、心を裸ン坊にする。まさに新年を迎えるにふさわしいから。上野の「ムンク展」から、恵比寿・東京写真美術館へハシゴする。 ムンクといえば、あの「叫び」だが、似た構図の作品に…

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『怪獣と美術』展〜「ウルトラの父」と呼ばれた男の、怜悧なアイロニー ウルトラマンとその怪獣たちと言えば、ぼくらの時代の子どもたちの心を鷲づかみにしたヒーローと敵役だった。だが、ウルトラマンの敵である怪獣たちには、けっこう人間臭くて、哀愁ある…

佐藤哲郎写真展「紐育流浪」(新宿ニコンサロン)〜突き放す距離感(2) 

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週刊誌記者として働いていた頃、編集者に「別に雑誌として彼を応援するつもりはない」とよく言われた。つまり、ぼくが取材対象に近寄りすぎて、どうしても応援口調な文章になりがちだと指摘されたのだ。そのクセがなかなか抜けない。 自分が読み手として、最…

佐藤哲郎写真展「紐育流浪」(新宿ニコンサロン・今月27日まで)〜突き放す距離感(1) 

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今のオレにこんな写真は撮れない、では、なぜ撮れないのか―そう自問自答しながら、この写真と20分近く向き合った(佐藤さんの許可をえて撮影させてもらいました)。もちろん、技術的な話ではない。表現対象との距離感だ。新宿ニコンサロンで本日から始まっ…

「ル・コルビュジェ展」(森美術館)〜なんてグラマラスな展示なんだ 

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は、恥ずかしながら、こ、こ、こんな巨人とは知らんかった。 館内を進むほどに、溜息が漏れた。30歳前後の彼の静物画が、幾何学的に再構成され、それがいわゆるコルビュジェ建築へと展開していく分かりやすさ。柱と梁(はり)を強化することで、既存の四角…

雨中の美術館めぐり(4)21_21デザインサイト〜関係性に形を与える 

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カカオ労働者の写真とともに、ハッとさせられたのが、今回の「チョコレート」展(今月29日まで)のディレクションを担当した深澤直人さんの「チョコレート色と白色の横断歩道」。いわゆる濃いグレーのアスファルト部分がチョコレート色。同サイト地下1階…

雨中の美術館めぐり(3)〜深澤直人ディレクション「チョコレート」(東京ミッドタウン内 21_21デザインサイト) 

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モハメド・ウヘドラオゴ(17歳)という黒人の少年、彼の約2m大のカラー写真が目の前にある。 着古して汚れた半袖シャツとズボン姿。その両腕は、潰しかけのカカオの実を抱えていて、汚れている。作業中に撮影したものと思われる。キャプションには、「彼…

雨中の美術館めぐり(2)〜「水と生きる」展(サントリー美術館) 

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東京ミッドタウン内に移転したサントリー美術館。その「水と生きる」展で、もっとも印象的だったのは着物の型紙デザイン。雨や川の流れを取り込んだ着物2つの隣に、数種類の小さな型紙が地味に展示されていたが、その視点はとても斬新だった。 たとえば、山…

雨中の美術館めぐり(1)〜「ヘンリーダーガー 少女たちの戦いの物語―夢の楽園」(原美術館) 

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誰にも知られることなく、81歳で生涯を終えたダーガーの作品群以上に、ぼくは彼の仕事場の写真に心臓をグニュッと握られた気分になった。いや、正直に書くと、気おされた。 天井の壁紙は剥がれ落ち、古びた安物のシャンデリアにはいくつも電球がない。彼が…

祝!佐藤哲郎写真展『紐育流浪』(8月14日〜27日・新宿ニコンサロン) 

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ニコンサロンが、日本初の民間写真ギャラリーだというのは知っていた。が、写真家の土田ヒロミや写真評論家の伊藤俊治ら選考委員の目にかなった人だけが、プロ・アマを問わず作品を展示できる場所だというのは知らなかった。友人のカメラマン、佐藤さんのニ…

「青山二郎の眼」展(世田谷美術館)〜「モダン」と向き合う 

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稀代の審美眼と呼ばれた青山二郎の眼になんて、ついていけるわけがない。小林秀雄をして「ぼくたちは秀才だが、あいつだけは天才だ」と言わしめた男だ。それでも、その眼がどんな骨董を見て感応してきたのかに触れるだけでもいい。そう思って、世田谷美術館…

石下理栄写真展『花空の裏庭』(北青山「DAZZLE」)〜腐臭を放つ花々の輝き  

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重篤患者ばかりを担当するクリティカルケアと呼ばれる看護士がいる。以前、テレビで観た彼女は、まず患者と対面すると相手の手を握る。その理由を問われた際の、彼女の言葉がいまも耳に残っている。 「パワーをもらうんです」 えっ?とぼくは思った。ベッド…

念願の三岸好太郎美術館(3)〜「虚無ヨリ生活ヲ始メタ」

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それまで厚塗りの油絵が多かった三岸は、そこからルオーやモディリアーニ、もしくはブラックやピカソめいた作品を残すようになる。昭和初期に「欧州画壇の変化をいち早く取り込んだ」画家として彼の名前があげられるのも、海外画壇の潮流の本質を的確につか…

念願の三岸好太郎美術館(2)〜「虚無ヨリ生活ヲ始メタ」 

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白々とした疎外感が目を引いた。美術館1階の最初のコーナーにある1枚の絵のことだ。黒味を帯びた深い緑に囲まれた、芝生の上に座る一組の男女。女は鎖骨から首までが白いレース編みで、少し暗めのオレンジ色のロングドレス。男は黒いセーターに茶色のズボ…

念願の三岸好太郎美術館(1)〜「虚無ヨリ生活ヲ始メタ」 

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モノクロで撮ると、ポプラの木はますます噴水めいている。太い幹に枝葉がうねりからみつくように空へと伸びているせいだ。三岸好太郎美術館のある北海道知事公館の敷地内にあった。 以前から、札幌市で行きたい場所が二つあった。ひとつはイサム・ノグチ設計…

中平卓馬トークショー(ABC本店)〜「写真は記録」への純粋な回帰

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「最近、”ムツゴロウさん”って言われるんだよなぁ」 写真家・中平卓馬さんが誰にともなく、そうつぶやくと会場から笑いが起きた。ぼくも思わず笑ってしまった。だってホント、作家・畑正憲さんに似ているんだもん。 会場の前から二列目の右端に座っていたぼ…

結純子ひとり芝居『地面の底が抜けたんです』(日本女子大)〜自らが光となる、という着想 

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結婚直前にハンセン病を発症した、ある女性の生涯をたどった、ひとり芝居を観た。結純子さんのひとり芝居『地面の底が抜けたんです』。藤本としさんの原作地面の底がぬけたんでんす 1―ある女性の知恵の73年史をふまえたものだ。 後半、ハンセン病が進み視力…

ピーター・へネシー展『My NSAT-110』(プロジェクトスペースKANDADA) 

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CS衛星放送に使われている通信衛星『NSAT-110』を実寸大で製作したアート・プロジェクトが、東京メトロ東西線「竹橋」駅そばのプロジェクトスペースKANDADAで、20日から5月19日まで開催されます。ピーター・へネシー展『My NSAT-110』。CS放送を受信し…

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「21_21デザイン・サイト」のプレス内覧会(東京ミッドタウン)〜過程をこそ見せるという試み 写真は生アンドーである。安藤忠雄氏自身による建築ツアーに参加してきた。つい3時間ほど前のホッカホカだ。場所は今月30日からオープン予定の、東京ミッドタ…

フラメンコ発表会〜人生の宝物の有無 

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ひさびさに、うちの奥さんの踊るのを観た。身内なので、いつもは「うまいだけではツマラナイ」などと辛口なのだが、今回はカッコ良かったと素直に伝えた。緩急の中にも動きにキレがあったから。 日曜日は、10キロ完走後、帰宅してゆっくり入浴してから夕方…

岡本太郎の仕事場〜寒々しくもあり、熱気ほとばしるようでもある

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先に書いた岡本太郎記念館で、もっともパワーを感じたのは当時のまま保存されている仕事部屋だ。二階部分を吹き抜けにして広さ30畳ほどか。窓に面した机の上には、絵の具や絵筆や刷毛、飲みかけのウィスキーやバーボンボトルが埃をかぶっている。その右後…

岡本太郎記念館「太郎の中の見知らぬ太郎へ」展〜偉大なるマンネリズム

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たぶん多くの人が、野球の上手い人がプロ野球選手になり、その中でも秀でた選手が大リーグをめざすと思っている。それは歌手でも、作家でも、画家でも同じだろうと。 だが、岡本太郎の絵を観ながら、少なくとも岡本はその順番が逆の人だと思った。命を燃やし…

歌舞伎座「紅葉狩」〜型(フォルム)をいかに食出せるか

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「食出(はみだ)す」って書くんだ、知らんかった。 まっ、それは置いておいて、市川海老蔵がお姫様から鬼女へ変わってみせる「紅葉狩」を観て、自分が今なぜ、歌舞伎を求めているのかがよく分かった。型とは「フォルム」とか「様式」を意味する。その型を食…

山福朱美木版画展『ヤマネコ毛布』(表参道・ビリケンギャラリー)

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二ヵ月前にひさしぶりに再会した朱美ちゃんの版画展のお知らせです。タイトルは『ヤマネコ毛布』。明日2日から14日まで開催予定です。 なお、わたしは明日から福岡取材のため9日まで不在です。宿泊先からブログは更新予定、あくまで予定ですが・・・。

重森三玲の庭〜「石に乞(こ)う」(2)

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昨日書いた展覧会に興味深い資料が展示されていた。 1939(昭和14)年、三玲43歳のときの本格デビュー作、京都・東福寺方丈庭園を作る際のエピソ―ド。三玲の人となりがうかがえるし、作庭を依頼した和尚の禅問答も笑える。 「・・・少々の礼金でやっ…

重森三玲の庭―地上の小宇宙展(汐留)〜「石に乞(こ)う」(1)

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右写真は、重森三玲の最後の作品、京都・松尾大社庭園の「上古の庭」。三玲79歳の作品と念頭に置いて、この庭の前に立ったとき、ぼくは狂気を感じた。それはパリのオルセー美術館で、他界する一年前のゴッホ自画像に死臭を感じたのとよく似た体験だった。…

歌舞伎座の一幕見席で「團十郎」満喫の夜 

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築地を出て、銀座までぷらぷら歩いていると、歌舞伎座前に人ごみ。公演が終わったばかりなのかと思っていると、「一幕見席の方、お一人1000円です」の声が耳に入った。ちょうど午後7時前、あまりのタイミングの良さだ。それに夕食後の歌舞伎見物なんて…

石内都『mother's』(東京写真美術館)―個別から普遍への視線

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以前、洗面所で髭を電気剃刀でそっているとき、いったい死ぬまでにオレはどれだけの髭を剃るんだろうかと思った。その他にも、生涯に美容室で切る髪、口に入れる食物の量、排泄する尿やウンコ、流す涙や垂らす鼻水などなど。さらには生涯に喋った言葉、手紙…

百済観音という頑なな優美さ

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聖徳太子がかなりの審美眼の持ち主だったのか、法隆寺の仏像はじつに多彩。中国テイストもあれば、インドテイストなものも散見される。で、いくつもの仏像を見た後で、百済観音とご対面になるのだが、これがマイッた。(この写真ではたぶんそれは伝わらない…

法隆寺の神秘さ加減

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早朝に東京を出て大阪へ。4日の奈良取材に備えての前泊なので、早めに出て斑鳩散策をもくろんだ。天王寺から大和路快速でJR王寺駅まで約20分。そこで友人と待ち合わせて、バスで法隆寺へ。学生時代、修学旅行の添乗員のバイトで訪れて以来だから20年以…