2012-01-01から1年間の記事一覧

たのしい造形「ふじ幼稚園」

先日取材で会った人たちから教えてもらった「ふじ幼稚園」(立川市)。彼らの大学時代のゼミの担当教官・手塚貴晴さんの建築作品で、コンセプトは佐藤可士和さんらしい。こんなジャングルジムみたいな幼稚園なら、ぼくも通いたかった。

代掻(しろか)きまでたどりつく

都内に向かう車で、コミックソングの名曲「金太の大冒険」が流れていた。一泊二日の田んぼ作業で疲れた身体に、ふいに笑いを注入してくれた。しかも放送局はNHK-FMで、「コミックソング三昧」特集だった。 ツボイノリオのこの歌を知っている人ならわかると思…

絵本作家モーリス・センダックが世界中で愛される理由〜NHKBSプレミア スパイク・ジョーンズ監督作『かいじゅうたちのいるところ』

だれもがすかれたいとおもう。すきになるのはかんたんだけど、それはやっぱりドキドキするぶん、こわいことでもあるから。それに、すかれることのほうがらくだし、うれしいから。 だれもがことばにしようとする。ほんとうはことばになんかならないんだけれど…

相手の顔が見える玄米〜こうざき自然塾の無農薬米

玄米食に切り換えようと思ったとき、ぼくの頭には一人の農家さんの顔があった。昨年11月、千葉県神崎町にある豆腐屋さんに取材に出かけたとき、関係者の一人としてお話をうかがった方。 20歳年下の取材者相手にも終始、丁重な受け答えをしてくださったの…

谷川俊太郎VS毛利衛〜ことばが現実に蓋をする

今度、お台場の日本科学未来館「世界のおわりのものがたり」展に行こうと思って、同HPを見ていたら、同館のプラネタリウムの制作にかかわった谷川さんと毛利さんの対談がアップされていた。 言葉が物事を規定することで隠してしまう「現実」をふまえ、それを…

「アースディトーキョー」(代々木公園)〜気持ちいい一日

どんどん大きくなってきたアースディ。 大手企業もどんどんブースを出店してくるほど、無視出来ない存在になってきた。東京近郊の農家と都市生活者をつなぐコンセプトで始まったイベントは、「3・11」をへて、安全安心な食べ物や自給、あるいは土に根ざし…

かすみがうらマラソン〜忘れられないラスト7キロ

Run

奇跡や、奇跡や、奇跡やと心の中で叫びながら走った。 その喜びをエネルギーに換えて、もっともっと走りたかった。35キロからの約7キロをこんなに普通に走れたのは初めてで、まるで未知の疾走感だったから。いつもなら30キロ過ぎで乳酸がたまり、35キ…

池田晶子『14歳からの哲学』〜行間は高らかに歌う

山あいの細い道をうんざりするくらい黙々と進み、ふいに視野が開けて高台や頂(いただき)に出る。あのときの清々しい高揚感を思い出した。 この本は前半70ページほどがとりわけ難しい。 哲学用語を使わず、ひらがなを多用して書かれてはいるものの、「自…

雑草魂

ようやく春めいてきたベランダの観葉植物のひとつの鉢に、どこかから飛んできた雑草の種が勢いよく繁殖し、鑑葉植物そのものがすっかりしおれてしまっていた。 それが植物そのものの寿命なのか、雑草の仕業なのかはわからない。腹いせまじりに、その雑草を引…

池田晶子『14歳からの哲学』〜かっこいい大人

オレって駄目だなぁと。 近頃、そう痛感させられることがいくつか続いた。 そんなときに、柄にもなくこんなことを考えてしまう。いったい、どうやって「大人」になっていけばいいんだろうか、と。 相手の言葉や思いを、心の手前ではなく、奥までしっかりと引…

人生初のびっくり炊き

初めてにしてはうまく炊けた。炊いてる途中で再度冷水を加える「びっくり炊き」。麺をゆでるときの「びっくり水」にちなんだ名前で、秋田地方に江戸時代から伝わる炊き方らしい。 もっちりとした食感と、胚芽を何度も噛み砕く感じがいい。冷めても、そんなに…

串カツ温泉〜大阪・新世界「八重勝」本店

店内中央の厨房の三方を囲むようにカウンターがある。サラリーマンの連れ、若いカップル、小学生の子供2人をはさんで両親、ワケありげな熟年カップル、若い兄ちゃんたち・・・・・。そこに不意に登場したのは、「兄ちゃん、持ち帰り頼むわ!」と声をかけた…

引きずり回される遠近法 〜池田晶子『41歳からの哲学』

同じ大きさの小舟を縦に並べて二つ描いてみる。 上の舟のさらに上に水平線となる直線と、雲を表すモクモク線を引けば、上の舟のほうがより遠くにあるように見え、実際に見えているよりは大きな舟、ということになる。あるいは、まるっきり同じ形の大きな家と…

畔(あぜ)づくり三昧

雨が降った後の土は重たい。この事実を体感として知っている人はそう多くない。畔づくりをすると、その重さがさらに痛感できる。シャベルで粘度状の土をすくい取り、畔に積み上げる作業がかなり腰にくる。 翌日の腰痛を防ぐには、時おりシャベルを持ち替え、…

NHK「ETV特集 生き残った日本人へ 高村薫 復興を問う」

TV

不意打ちの言葉だった。 震災から1年たっても電気も水道も止まっている自宅に、取材陣を招き入れた70代の漁師はこう言った。 まずは教育でしょう、と。 この家を元通りにしたからって、人はつくれない。だけど教育なら人がつくれる。人がつくれれば、きっ…

サティシュ・クマールの言葉(1)明治学院大学

スモール イズ ビューティフル (講談社学術文庫)作者: F・アーンスト・シューマッハー,小島慶三,酒井懋出版社/メーカー: 講談社発売日: 1986/04/07メディア: 文庫購入: 13人 クリック: 233回この商品を含むブログ (23件) を見る すでに1970年代に、化石…

青梅マラソンの快感

RUN

雲ひとつない、きっぱりとした空を見据えて走る。 適度なアップダウンを脚で味わい、丘陵地帯の広々とした眺望を愛でながら、飛ばすな飛ばすなと自分に言い聞かせる。威勢のいい和太鼓のビート、公式のもの以外に、あちこちにできる善意の給水所、子供たちの…

タイラー・コーエン「大停滞」〜日米の「マトリョーシカ」信仰

容易に収穫される果実は食べ尽された――そのキャッチコピーに惹かれて、気鋭の米国人経済学者の本を手に取ってみた。だが、低成長構造に陥った米国のシステム分析よりも面白かったのは、先の米国の金融危機の本質を、米国人の自信過剰だと看破した部分。一部…

山田詠美「ジェントルマン」(講談社) その文章を目で追いながら、むしろ、その句読点が刻む旋律や音節をこそ、 自分の耳が追っていることに気づいた。ひとっ走りした後、飢えた野良犬みた いに大量の水を飲み干しながら、じつは喉が鳴らすゴクンゴクンとい…

立春の日に

地元農家のおばさんたちが、味噌と茹で大豆とゴボウを臼でついて作ってくれた「唐辛子ゴボウ味噌」が美味かった。今年一年、あんまりとんがらないでね、という意味合いがある地元の名産品らしい。 耕作放棄田んぼを借りている千葉県匝瑳市で、毎月第一土曜日…

池田晶子著『暮らしの哲学』

「なぜ自分はここに生まれて、あそこに生まれなかったのかということは、考えても、理由がない。理由が見つからない。ということは偶然である。したがって絶対である。この、偶然的なことが絶対的であるという原点に気がついていると、自分の人生に、言って…

世界で最初の読者であること

昨日、有楽町線「銀座一丁目」駅近くの地下一階のルノアールで、3時間超のインタヴューを終えて、地上に出るとすっかり日が暮れていた。少し高揚した気持ちと火照った頬を、冷たい外気で冷ましつつ中央通りを歩きながら、昔、ウルトラセブンの変身メガネが…

「常夜燈」から「ヒミズ」へ(3)

安藤忠雄事務所玄関前の貼り紙にグッときて、このまま東京で帰るのがさらに嫌になった。地下鉄で心斎橋に出た平日午後、ひさしぶりに商店街を道頓堀までぷらぷら歩く。 道頓堀のTUTAYAまで来て、ふいに今年の手帳を物色する気になって立ち寄る。そこで見つけ…

「常夜燈」から「ヒミズ」へ(2)

感想はむずかしい。 答え方ひとつで、相手に自分が見切られてしまう危険性があるからだ。先の安藤事務所から持ち込まれた千枚漬けを一口食べたとき、市販品みたいな味だったが、「安藤事務所」というブランドに負けたのと、こういう老舗はいくら顔見知りとは…

「常夜燈」から「ヒミズ」へ(1)

おもろい続編。 「昨日やったら、もっと具が多かったんですけどねぇ」 誰も聞いていないのに、エビス様顔のおでん屋老店主が、さらにニコニコしながら言う。なんてバカ正直な、というなかれ。これ以上、最強のマーケティングはないからね。この一言は、むし…

上田正樹&有山じゅんじ「おれの借金、全部でなんぼや」

上野駅近くで3時間ほどの取材を終えた夕方、お弁当を買って東京から新幹線へ。新大阪駅から堂島川近くの宿泊先へたどり着くと、オフィス街のど真ん中。このへんの土地勘もあまりないし、東京の下品な醤油色のじゃなくて、昆布だしの透明感のある大阪うどん…

一点の赤み

舞台に上がる前、落語家がその演目をおさらいすることを、「噺(はなし)をさらう」という。マンションのダイニングキッチンの流し台前で、故・立川談志がさらう人情噺「芝浜」がよかった。この年始年末、もっとも印象に残ったテレビ番組の映像。たしかNHKBS…