ふと手を止めて水面の左上を見ると、トノサマガエルが水面から両目だけを出して、あらぬ方向をじっと凝視している。微動だにしない。その脇を藍色のシオカラトンボが悠然と横切っていく。泰然としたカエルを少し脅かしてやろうかなと思う気持ちを抑えて、雑…
51キロ過ぎだった。給水所で冷水をかけたせいか両方の大腿筋の張りが消え、意識が妙にクリアになり、周りの風景がよりくっきりと目に映った。そのとき骨と皮と前進する意志だけに削ぎ落とされた自分をはっきりと感じた。ゴール目前でにわかに元気になるの…
ちょうど49キロすぎだった。前を走る男性の背中のゼッケンに書かれたメッセージが目に入った。 「初ウルトラ挑戦。自分には負けたくない。距離にも負けたくありません。そして感謝!62歳」 白髪頭には不似合いなほどがっしりした体躯に、日焼けした太い…
どんなにヘタクソでも何年もやっていれば、程度の差こそあれ、誰でもそこそこうまくなる。それで「エヘヘッ」とおもう人と、「何だかなぁ・・・・・・」とおもう人にたぶん分かれる。 昔、ぼくが2年ほどつづけた華道「草月流」でも、初級レベルで基本形と呼…
ひょんなことから歌と出合う。このブログでも書いた、NHK-BS1の世界のドキュメンタリー「職場で歌おう」の中で、大病院の合唱団が歌っていたのが、R.E.Mの「Everybody hurts」だった。英語がすぐ胸に刺さらないから洋楽は苦手だけど、その切ない表題にぴった…
走り終わって芝生の松の木陰に寝っころがると、裸足から両ふくらはぎにかけて血管がどくどくと波打っているように見えた。我ながらちょっと気味悪かった。それでも5月の涼しい風は、北の丸公園の水道水を頭から浴びた頭や顔をひんやりと撫でてくれる。しば…
合唱で仕事がおもしろくなる? 職場がたのしくなる? たぶん、そんなこと誰も信じないだろう。だが、この番組を見れば、合唱のマジックパワーを疑う人は急減するはずだ。イギリスでもっとも忙しい4つの職場で、合唱コンクールへの参加希望者を募り、ギャレ…
[訃報]逢坂じゅんさん逝去(元「レッツゴー三匹」) 昨夜のテレビニュースで、逢坂さんが亡くなられたことを知った。まだ68歳という若さだし、NHKの連続ドラマ「ごちそうさん」やTBSの「半沢直樹」にも出演していらしたそうで、残念というしかない。大阪で…
ボールピープル作者: 近藤篤出版社/メーカー: 文藝春秋発売日: 2013/05/29メディア: 単行本この商品を含むブログ (5件) を見る バカみたいにだらだらと走った翌日。五月晴れのうららかな窓外の光景を尻目に、日がなコツコツとキーボードを叩きつづける。こん…
やだぁ〜、なんかおじいちゃんみたい。6時間走を終えて帰宅したぼくの背中を見て、奥さんがそうポツリ。彼女にうながされるままに洗面所の鏡で背中を見ると、ちょうど背骨を軸に「ハ」の字型が縦に3つ並んで、ふやけたように皮膚が垂れ下がっていた。 ほら…
雲ひとつない夕焼けに向かって京葉道路を都心方面に向かいながら、ベット・ミドラーの「男が女を愛する時」がカーラジオから流れて来た。田んぼ作業で程よく疲れた身体に、聴く者をなぎ倒すようなミドラーのボーカルが沁み渡る。オジさんたちの泥んこ遊びの…
宇多田やYUKIの歌をぼくが好きなのは、そこに死や虚無がきちんと挿入されているからだ。光と影があってこそ優れたポップミュージックは人の心に刻印される、勝手にそう思っている。 森美術館で開催中の「アンディ・ウォーホル展」で、もっとも驚いたのは、イ…
程よい厚みのあるトロトロ層の上を、オタマジャクシが悠々と泳ぎ回っている。まだ生まれて間がないのか、どれも5ミリほどの頭のほうが、胴体より断然大きい。田んぼに近づいた僕の気配を察してか、ほぼ全身を横たえていた全長4センチほどのミミズが、頭部…
先の板橋から9日目、鼻風邪もようやく収まり、桜が満開の下を70分間走。走り出して身体がほぐれてくると、花見客を尻目に、適度な発汗とともに身体がゆっくりと目覚め、稼働していく感覚がやっぱり心地いい。 自分のちっぽけさを相対化する方法はいくつも…
25キロ以降、汗をかかなくなってラッキーと思ったら、しばらくすると身体が動かなくなった。初めて頭痛もしてきた。給水に失敗したと気づいたときにはもう手遅れだった。 前半、発汗量がいつもより多かったのに、10キロに一度のペースでしか給水をとらな…
このブログでも書いたが、Facebookの友達リスクエストが昨年、韓国の旧友Kから14年ぶりに届いた。それがすべての始まりだった。つづいて大阪出張の際に再会した友人から、ソウル在住の友人のメルアドを教えてもらうことができた。 その後で企画が通り、ソ…
まいった。新聞のラテ欄で、(終)の文字が二つの番組名の後ろに付けられていた。インターFMで午後10時からの宇多田ヒカル「KUMA POWER STATION」と、NHK-FMで午後11時からの「元春レディオショー」。あっという間の2時間だった。火曜日の楽しみの二つを一…
今、世間で何かと話題の理化学研究所モノ。例の話とは一見何の関係もないようでいて、じつはちょっぴりあるような演劇脚本を08年に文庫本化したもの。ノーベル物理学賞を受賞した朝永振一郎の青春時代を舞台に、原爆製造をめぐる科学者たちの情熱と狂気を描…
きれいに冬枯れした皇居外苑の芝生に汗まみれの身体でごろんと転がり、大の字になる。夕方前の少しくすんだあおぞらと向き合う。お腹の皮をできるだけ背中まで近づけて、深く呼吸をしている自分がいる。 そういえば2年前の夏、千葉県匝瑳の田んぼの脇で、炎…
5キロ周回コースの片端、ちょうどレインボーブリッジ側にある、カイドウの木3本がその桃色の花びらを雨に濡らしていた。たしか、うちの近所では、まだサクランボみたいな蕾(つぼみ)のままだったはずだから、都心よりもお台場のほうが暖かいのか。ふいに…
「ジャブは嫌 初恋パンチはストレート わたしのハートはあなたのラブ・セコンド」 女性アイドル歌手みたいな声質で、一節も歌わず、こんな歌詞をひたすら語るレコードに友人Sと顔を見合わせ、ほぼ同時に苦笑した。また、この店でやられてしまった。 これぞ、…
さんざん物語られ尽くしたかにも見える東日本大震災。それを被災地にいて、まったく被災しなかった家族に視点をおいて描くという着想がまず秀逸。被災した家族との時にぎくしゃくとしてきしみ、また、時にひりひりする感情のぶつかり合いと、吐き出すあての…
毎朝起きると洗顔、つづいて布団のうえでストレッチをしてから、ベランダに出る。座禅を組み丹田で深く呼吸しながら、まず母の顔を思い浮かべる。お湯を沸かしお茶を入れて小鉢に分け、お茶好きだった母の写真の前において、おはようと声をかける。 あるいは…
日本人は”ヒーロー”好きだなぁと、出所後のホリエモンをめぐる報道などを尻目に思っていた。出所後の彼の著書で、なぜかヒット中の『ゼロ』をアマゾンで検索すると、読者レヴューには、ざっと見た限りでは、「粉飾決算」の文字がなかなか見つからない。もし…
朝から降り続く雪を時折見ながら、今日は原稿をちんたらちんたら終日書いていた。その休憩時間に残りを読み切ったのがこの本。 米国カリフォルニア州を舞台にした全長217kmを60時間以内(2010年当時)で走るウルトラマラソン「バッドウォーター」に合計…
ひょんなことから、ある歌会を見学させていただく機会をえた。歌会とは、自作の短歌を持ち寄り、批評する集まりのこと。そこで最近、最愛のご主人が老人施設に入所されることになった、女性の歌に触れることができた。 入所わずか2日目なのに、ご主人に会い…
「クゴ、ピンゲ ジ(それって言い訳だろ)」 なつかしい友人相手に思わず口をついて出た言葉にハッとして、「ピンゲ」が「言い訳」を意味する韓国語であることをぼくははっきりと思い出した。おそらくソウルで暮していた、まさに30年近く前以来、自分の口…
「荒川さんの期待に添えなくて申し訳ないんですが、私は趣味で狩猟をやるんですよ。鳥もふくめて、山の動物たちは人間が近寄れない境界線をじつによく知っていて、そこを越えて近づける体力が欠かせない。できれば狩猟は70歳までつづけたいと思っているん…
神宮外苑の周回コースから国立競技場に入ると、観客席が目に入り、心なしか歓声も耳にしながら、薄いレンガ色のトラックをゴールに向かって全力で駆ける。この、ちょっぴりアスリート気分が味わえるのが最大の魅力。他のマラソン大会ではなかなか味わえない…
youtubeで検索すると、昔見た、たかじんのテレビ番組が出てきた。おまけに、ゲストには、ばんばひろふみと谷村新司がいて、中学の頃から大好きだったラジオ番組「ヤンタン」の女性立ち入り禁止コーナーの話にも笑えた。そう、笑いながら合掌したい。「やっぱ…