2008-01-01から1年間の記事一覧

西岡常一『木のいのち 木のこころ』(草思社)〜合理化バカ

法隆寺などの解体修理などに携わった伝説の宮大工。故・西岡常一さんの本を読みながら、何度も唸らされた。その言葉は木だけにとどまらず、人や世の中にまで届き、その上、深く突き刺さっている たとえば、「木を長く生かす」という章では、宮大工の世界に代…

自分の仕事に誇りを育む方法

「喧嘩を売られたような気分だよ」 ブラウン管の向こう側で、宮崎駿が怒っていた。それは、映画『崖の上のポニョ』の主人公である男の子のカットを担当するベテラン・アニメーターに向けられてた。男の子のカットの背景を飛ぶ小さな鳥が、少しも飛んでいるよ…

YUKI『ファイブスター』〜生と死を見すえてこそポップソング

白はそれだけでも、もちろん白。だけど、その隣に黒があることによって、白としてさらに輝く。まるで同じことが、生と死についても言える。 哀しくって 泣いてばっかりいたから 芽が溶けて無くなった 秋になり また 冬になり ひとつ年をとった 遠くまで 逃げ…

赤塚不二夫さん逝去〜書かれない物語

昔、女性誌のドキュメントページを担当していたとき、赤塚さんの奥さんに取材を申し込んだことがあった。ちょうど、赤塚さんの過去の対談をまとめた『バカは死んでもバカなのだ』が刊行されたとき。それを読んで、赤塚夫人の視点から、この天才を描けないか…

シンプルの強度(3)〜出光美術館『ルオー大回顧展』

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あらためて、小林秀雄の『ルオーの版画』という文章を読み返すと、彼はルオーの版画しか部屋に飾っていなかったという。文中で、「ミセレーレ」シリーズの日の出の画が部屋にかかっていることを明かし、その絵について述べている。少し長いが、引用しておく…

シンプルの強度(2)〜ルオー大回顧展(出光美術館)

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白状すると、あまり期待していなかった。あの太い縁取りと、何度も執拗に色を重ねていく画風は、もちろん知ってはいたけどね。 あとは、小林秀雄がジョルジュ・ルオーについて、短文をいくつか書いていたなぁという程度。昨年行った札幌の三岸好太郎美術館で…

シンプルの強度(1)〜アルベール・ラモリス『赤い風船/白い馬』

「北京五輪」企画の原稿が全部終わったので、気分転換に外出。まず、シネスイッチ銀座で、アルベール・ラモリス『赤い風船/白い馬』の2作品を立ち見鑑賞。映画の日だったせい。仏のオルセー美術館が開館20周年記念事業として立ち上げた第一回目の監督に、…

夏の瓜とハタハタ〜手作りの涼

ちょっとした食卓のマイブーム。少し枯れた器の緑とも呼応して、黄緑色の瓜がつややかできれい。パリパリした食感も、朝からうれしい。真夏日がつづく食卓にささやかな涼を呼ぶ一品。 食事の最後に、口内をさっぱりと洗うように、瓜の漬物でお茶漬けをさらさ…

「北京五輪への道」企画続報 以前告知した「北京五輪への道」企画が、ぼちぼち更新されています。1人前後編2回完結です。 野口みずき(女子マラソン) 足はすべてを映す鏡 上山容弘(男子トランポリン)「精密機械」と呼ばれる男 小椋久美子・潮田玲子(女…

舟越桂『夏の邸宅』展〜脳裏にこびりついた両性具有像

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この夏初めての蝉時雨につつまれる。 目黒の東京都庭園美術館にたどりつくと、喧騒のエアポケットに入ったような気分。館内に入ると、酷暑からも逃れて、冷ややかで、しんとした空気にホッとする。まさに夏の邸宅に迷い込んだよう。 数年前に、都立現代美術…

宮崎駿『崖の上のポニョ』〜現実から飛翔する力

宮崎アニメの飛翔感が好きだ。加速した飛行機が滑走路からフッと浮きあがる、あの瞬間の感覚。観る側を物語の世界へ引きずり込む力のこと。優れた小説や音楽、演劇や美術品はどれも兼ね備えている。 過去の作品では、それは文字通り、主人公たちが大きな鳥な…

大澤真幸『不可能性の時代』(2)〜他者性を抜き取った他者

ひつこくて、すまん。だが、どうしても書いておきたい。 この本で、大澤さんの「オタク」についての言及部分。 他者の他者たる所以は、差異性にこそある。他者についての経験は、何であれ、差異をめぐる経験である。そうであるとすれば、オタクが欲求してい…

大澤真幸『不可能性の時代』岩波新書(1)〜現実への逃避という慧眼

現実逃避とは、あくまで現実からの逃避を意味する。 だが、大澤さんは、むしろ現実への逃避だという。一見小さなようでいて、それは天と地ほどに違う。やはり、ぼくらが学者に期待するのは、今を生きるぼくらの社会の空気を看破する、こんなコペルニクス的な…

汗かき対暑法

「最近の人は、頭ばっかり疲れてて、そのくせ身体をまるで動かさない。そのアンバランスさが、ストレスを一層助長しているように思いますね」 マラソン後に行くマッサージの先生の言葉が、頭の隅にこびりついている。 近頃、原稿を書いていると脳が腫れてく…

原研哉『白』〜白を起点に世界を見る

白作者: 原研哉出版社/メーカー: 中央公論新社発売日: 2008/05/01メディア: 単行本購入: 6人 クリック: 55回この商品を含むブログ (47件) を見る 雑踏の中で好みの女性に目が留まり、ハッとして立ち止まる。 そんな感じの本に出合った。それは小林秀雄の「花…

空を見上げるとき、足元を見つめるとき(2)〜肉声のグラマラスさ

一方の伊勢華子さんは、日本の離島をめぐることを続けてこられた。その着想、その行動の積み重ねがすばらしい。この日も、全島民数11人のある島で、小学校を存続させていることを話されていた。エコブームもいいけど、自分たちの足元にももっと見つめなけ…

空を見上げる時、足元を見つめる時(1)〜形容詞以前

以前、「サタカフェ」に出ていただいた伊勢華子さんと西村佳哲さんが、お2人でトークショーをやられると聞き、ヌースフィアのF社長と聞きに行った。話が進むにつれて自分の身体の力みが消え、二人の言葉がストン、ストンと胸の底におちてくる。おだやかな…

インタヴューの神様(2)〜大阪・御堂筋通りでの思い出

企画の趣旨を手短に説明して、ぼくは練りに練った最初の質問を口にした。 「横山さん、お好きな政治家はいらっしゃいますか?あるいは、嫌いな政治家の方でも構いません」 その年の参議院選挙で、故・横山やすしさんは、「風の会」から出馬していた。 「にい…

インタヴューの神様(1)〜大阪・御堂筋通りでの思い出

小雨そぼ降る中、ぼくは傘もささずに大阪の御堂筋通りを歩いていた。 身体は妙に火照っていた。そのくせ、頭は空っぽというか、正直、何も考えられなかった。午後3、4時頃。しばらくして思い浮かんだのはひとつの反省で、考えれみれば、ぼくはいつも取材す…

自己責任ということ〜400mハードラー為末大という鏡

自己責任という言葉は、この国では否定的な文脈で使われやすい。 「それは自己責任だろっ!」とか「自己責任でやりなさい」とか。その責任を糾弾したり、もう私は知らないから勝手にやってくれ、と放り出す側がよく使う。 それは、「責任」という言葉の本当…

坂東玉三郎『高野聖』〜残念

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ナショナル・トレーニングセンターでの取材を終え、赤羽から四谷、丸の内線で東銀座へ。歌舞伎座午後の部の最終演目『高野聖(ひじり)』を一幕見で観たかった。というより、玉三郎を生で一度観ておきたかった。 市川海老蔵扮する修行僧を、誘惑する妖気ただ…

大島弓子『グーグーだって猫である』(第1巻 角川文庫)〜隙間たっぷりの生老病死

穏やかな昼下がり。レースのカーテンが、いくらかの日差しと風をはらんでしずかに揺れる。この本には、そんな余白がふんだんにある。読みながらどんどん力がぬけていく。 ひさびさに大島さんの漫画を読んで、サバと大島さんの日々を淡々とつづった過去の作品…

緊張と緩和の落しどころ

Run

たぶん、他人から見たら変な人だと思う。 いかに余分な力を使わずに歩けるか。どうしたら、楽に階段を上り下りできるか。近頃、そんなことをよく考えている。 上体の傾き方や、肩甲骨や骨盤の動かし方、踏み出す足の脱力度合いとか。あれこれ試しながら、歩…

見ているのに、見えていないもの

それは、度の強い眼鏡をかけたような感じ。 後頭部の安眠をさそうというツボをもんでもらうと、たまに、視力が一瞬だけ良くなったような気がする。あの感覚。あれに似てるけど、もっと驚きが大きい。 スポーツ選手の恩師の方と、試合のビデオを一緒に観てい…

恐るべし、マスカルポーネ〜中目黒「ambiance」

近頃、ひたすらパソコンと向き合う地味な日々。30分ジョグなどで汗をかいて、かろうじてストレスを解消している。なので、先週3日に出かけた、リッチなランチ打ち合わせについて書く。編集のNクンの希望で、中目黒「ambiance」のランチへ。ふふふっ、日…

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『北京五輪への道』連載中(nikkei BPnet)〜スチャラカ、スポーツに迫る 5月末より、『北京五輪への道』という連載企画が、ひそかに始まっています。8人の日本代表選手を支える人たちを通して、等身大の選手像や各競技の本質に迫ろうというものです。1人…

レンタルお姉さんの連載漫画化〜月刊漫画誌『マリカ』8月号から掲載開始

ドラマ化に続き、『レンタルお姉さん』が漫画になりました。先月末発売の漫画誌『マリカ』8月号(扶桑社)から連載開始。最寄りの書店でご覧ください。 連載終了後、単行本化されるようです。3年前の拙著発売後、漫画化を目論んで、いくつかの青年漫画誌の…

祝スペイン、ユーロ優勝!〜胴上げで消えたアラゴネス監督!?

あ〜あ〜、スッとしたぜ。守備の下手クソな独ラームをかわした、フエルナンド・トーレスの芸術的ゴール!ついにドイツの悪運が尽きた瞬間だった。「バモス!バモス!(行け!行け!)」と応援していた夫婦で大喜び!

陸上日本選手権にプレスで潜入〜がんばれニッポン!

行ってきました、川崎市の等々力陸上競技場。昨日の雨が嘘のような晴天で、夕方からナイター模様になると、青い芝とレンガ色のタータン・トラックがきれいに映える。レースを追う全方位型の空中カメラが、トラックを斜めに走ってるし。男子ハンマー投げ、4…

サッカ―は生き物

サッカ―は生き物やなぁ。そう痛感させてくれる試合だった。スペインを除く、グループリーグの1位チ―ムが、決勝トーナメントでは軒並み敗れ去ったこともそうだ。だが、あのオランダを怒涛のカウンタ―サッカ―で圧倒したロシアが、今朝はまるで別のチ―ムみたい…